関根 雅泰(せきね まさひろ)氏
株式会社ラーンウェル 代表取締役
東京大学大学院 中原研修士卒。専門分野は「OJT」と「研修転移」。研修を単発で終わらせず、現場実践までフォローする「転移促進」が強み。そのノウハウを応用し、地元では若者やシニアの独立起業および事業継続を支援。OJT関連の著書に『オトナ相手の教え方』(クロスメディアパブリッシング)『対話型OJT』(日本能率協会マネジメントセンター)等がある。立教大学大学院 中原淳教授との共著に『研修開発入門 研修転移の理論と実践』(ダイヤモンド社)『人材開発研究大全』「OJTと組織社会化」「研修転移」(東京大学出版会)『研修開発入門 研修評価の教科書』(ダイヤモンド社)等がある。
研修の目的は成果を出すため“ではない”
研修とは、そもそも何のために行うのか。現場で成果を出すためだろうか。「いや、そうではなく、『成果につながる行動』を促すためであると考えている」と関根氏は語る。
成果を出すには、会社が置かれた市場環境があり、その市場環境を前提とした経営戦略があり、その経営戦略をもとにした施策があり、その施策を実践していく行動がある。これらの積み重ねによって成果が出るのであるからして、研修だけで成果を出せたというのはおこがましいし、それを証明するのは不可能だ。つまり、研修が直接的な成果にはつながらなくて、当然なのである。
こう考えたのは、関根氏が師事する立教大学 経営学部 教授の中原淳氏。また、評価学の世界ではジェームス・カークパトリック氏が「4レベル評価モデル(新モデル)[1]」として発表している。
注
[1]: 評価学の世界では、ジェームス・カークパトリック氏の実父であるドナルド・カークパトリック氏が提唱した「4レベル評価モデル」が権威的な地位を獲得している。これをベースに考案されたモデルであることから、ジェームス・カークパトリック氏のモデルは「4レベル評価モデル(新モデル)」と名付けられている。
ジェームス・カークパトリック氏の新モデルでは、レベル3(行動)のCritical Behaviors(成果につながる重要な行動)を重視した。同時に、レベル2(学習)とレベル4(成果)の間に直接的なつながりがないことも示している。
次に、新モデルで測定したい項目について見ていく。
次図で示すように、レベル1(研修)とレベル2(学習)で測定するのは、「効果的な研修だったのか?(Effective Training)」。研修直後に人事によって行われる研修そのものの評価だ。
他方、レベル3(行動)とレベル4(成果)で問題とされるのは、「研修の効果(Training Effectiveness)」である。研修によって成果が出たのか、研修によって行動が変わったのか。むろん、現場の上長や経営層が注視しているのはこちら側である。研修そのものが効果的だったか否かは、彼らの興味の範疇にない。
要するに、人事が測定しているもの(効果的な研修)と、現場の上長や経営層が求めているもの(研修の効果)にギャップがあるために、両者の議論が噛み合わない事態が発生しているのだ。
「結論、研修を行う人事としては、研修によって成果が出ることまでは約束できない。なぜなら成果が出るまでには、さまざまな要因が関係しているから。とはいえ、我々は研修をやりっぱなしで終わらせるつもりもない。ちゃんと成果につながる行動を生み出す『レベル3(行動)』までは約束しましょう」(関根氏)