なぜ優秀な人材はストックオプションに惹きつけられるのか
——ストックオプションとは何か、なぜスタートアップ企業で利用されているのか、改めて教えてください。
ストックオプションとは、会社の株式を将来的に一定の価格で購入できる“権利”のことです。入社などのタイミングで権利を与えられ、将来的に企業価値が向上し、株価が上がっていればその差額を自身の利益とすることができます。つまり、会社の成長に伴って利益を得られることから、その成長に貢献したインセンティブとして機能するわけです。以前からスタートアップ企業でよく利用される手法ですが、近年は特に税制が優遇される「税制適格ストックオプション」の使い勝手が向上し、普及が進んでいます。
スタートアップ企業がストックオプションを活用する理由は、主に2つあります。1つ目は優秀な従業員を長期的に確保するためで、ストックオプションによってリテンション効果が期待できます。2つ目は優秀な人材を惹きつけるインセンティブとして機能することです。ストックオプションで自分が利益を得るには、自身も頑張って事業を成長させる必要があるので、組織へのコミットメントやエンゲージメントを高める効果があります。
一般的には上場時に権利を行使できるので、従業員は「上場する」という共通の目標に向かって、会社の成長に貢献しようというモチベーションが高まります。
——単に報酬ということでいえば、給与や賞与などと同様と思われますが、なぜ優秀な人材はストックオプションに惹きつけられるのでしょうか。
給与や賞与を十分に出せないスタートアップでも、上場によるストックオプションはまとまった金額になるため、インセンティブとしては大きな魅力となります。ただそれ以上に、自身が携わったことによる会社の成長をダイレクトに感じられることが大きいと思います。事業に魅力を感じて入社する人も多く、その“成功の果実”を仲間と分かち合う喜びは、金額以上の魅力です。優秀な人ほど、自身の裁量で会社を成長されることができたという手応えを得たいと感じるようですね。
そのような効果をもたらすには、「誰に渡すか」は大きなポイントです。CxOとして経営に携わる人なら、株主と同じ視座をもって事業に取り組むことができるでしょう。一方で、経営に直接携わらない人も、単に被雇用者としてではなく一段階視座を上げて、自分がどうすれば企業価値に貢献できるのか考えるきっかけになります。
ただし、その価値をしっかりと認識してもらうためには、会社側からしっかりとストックオプションの目的や意図を伝えておく必要があります。会社がどのくらい成長したら、どのくらいの見返りがあるのか。そのためには、その人にどのようなことをやってほしいのか。それらを伝えないまま、漫然と制度として運用している会社も少なくありませんが、本当にもったいないと思いますね。