管理職対象の研修をブラッシュアップ 他部門の協力も得て人事施策を推進
——どのような人事施策につながったのですか。
今回の気づきは、「部内連携」「課内連携」の重要性です。となると、部長や課長の存在がキーとなるのではないかと考えました。さらに、「成長実感」が「達成感」に強い好影響を与えることも分かりました。そこで、「メンバーが良いフィードバックを受けて成長実感を得られるようにしよう」と考え、部長・課長の「フィードバックする技術」を高めるために、グループ共通の管理職を対象にした研修にフィードバックに関するコンテンツを取り入れました。
他にも、「プロフェッショナリティ」の向上は、「達成感」と「成長実感」に強く影響を与えているため、ここにも打ち手を考えました。「プロフェッショナリティ」には、「顧客意識」が関係していることが分かります(次図)。

この顧客意識を上げる施策はとても難しかったのですが、顧客満足度アンケートの共有や、顧客アンケートをもとにした研修を実施することにしました。
——顧客満足度アンケートは人事部門以外の領域かと思うのですが、異なる部門との連携は難しくなかったですか。
幸いにも、各社の顧客アンケートを統括している部門がホールディングスの経営企画だったのです。隣の部署のような感じでしたし、経営企画も顧客アンケートの活用には課題感があったようなので、経営企画で集めたアンケートをもらって、人事のポータルに掲載するという流れで実現しました。経営企画に協力をお願いするときにも、因果分析の結果は役に立ちましたね。
人事施策に「自信を持てる」ように ブレずに進める
——因果分析を行って約2年が経ちました。人事施策の成果は見えてきていますか。
組織サーベイの結果を幹部職[1]と一般職で分けたときに、一般職の「達成感」「成長実感」「プロフェッショナリティ」の数字が徐々に上がってきています。上司のフィードバック技術を高める研修などを続けた影響ではないかと考えています。
注
[1]: 同社では、管理職層を「幹部職」という呼称で統一。社内制度では幹部職と一般職で分けられる。幹部職の中でラインを持つと管理職と呼ばれる。
グループ共通の管理職を対象にした研修も、他の会社の人と意見交換したりマネジメントの悩みを共有したりできる点で評価が高いです。続けるうちに関係性が生まれるため、「階層・組織横断風土」で見ている数字も少しずつ良くなっています。
さらに、「連携の必要があったができなかった」という項目が、ここ数年で縮小しています。それも、最初は課や部から小さくなって、その後に本部や会社の数値が少なくなっています。
また、組織サーベイの結果を経営層に報告するときは、自由回答で得たワードもLLMで分析したうえで示唆まで導くようになりました。

——人事施策の推進や組織サーベイの報告時、経営層や従業員への説明に変化はありましたか。
さきほど成果として紹介した組織サーベイの数値は、業績などにも影響されるので、人事施策だけの成果だといいにくい部分があるのですが、今回紹介した因果分析は、専門的な統計手法により自社の従業員サーベイ質問項目の関係を構造化・可視化することに加えて、アウトプットされた結果に対して専門家の意見も反映したものです。担当者の経験則や他社の成功事例ももちろん参考になるのですが、因果分析の結果とともに考察することによって、自信を持って施策を進められています。
人事をずっとやってきた人間として、自社の状態が可視化される。しかも定量化・構造化されて見えるのは、とても画期的なことだと感じているので、今後も自信を持って経営に提言したり、従業員に開示したりしたいですね。
——最後に、今回のお取り組みで特に重要だと感じたことを教えてください。
因果分析の結果として出される構造化された項目の中で、どこに焦点を当てるのかは人事の責任です。その焦点をブラさずに、2年間施策を進めて、数値を追えたのはよかったです。人事施策は成果が見えにくい分、目的や施策がブレそうになるときがあるのですが、経営戦略とも視点を合わせながら自信を持ってブレずに進めることが何よりも重要なのだと思います。