タレントマネジメントの成果と3つの学び

タレントマネジメントに取り組み始めて3年ほど経った現在、成果はどのように表れているのか。
六原氏は「上⻑・経営に、後任を育成するという意識が生まれた」ことを成果の1つとして挙げた。
「スタートアップを経験してきた経営陣や上長は、自分が頑張ればいいという意識が強かったんです。しかし、中長期的に会社を成長させるためには、後任の育成も必要。現在は、少し先の未来の組織や人の最適配置を考える広い視点が生まれて、育成についての議論も活発化しています」(六原氏)
また、キータレントマネジメントのプロセスを経て、VP・ミドルマネジメントが複数就任するという実績も出てきている。「人が足りないから」ではなく、タレント会議で指摘された育成課題が改善されたうえで、登用後の活躍も見込んだ状態での適切なポジション配置が実現しているという。
これまでの取り組みを経て、六原氏は、拡大期の企業がタレントマネジメントを実践する際のポイントを3つ挙げた。
1つ目は、完璧な計画よりも、課題ベースでとにかく取り組み始めること。2つ目に、組織・事業の拡大の肝になるポジションを特定し、重視すること。経営人材も大事だが、SmartHRのようにミドルマネジメントなどのハブ的な役職の重要度が高い可能性もあるからだ。そし3つ目が、「育成の主体は人事ではなく現場の部署」という意識である。
拡大期の「キャリア支援」のあり方
これまでSmartHRが実施してきたタレントマネジメントは、1つ目のアプローチ「キータレントの戦略的育成」がメインだった。六原氏は、もう1つのアプローチである「キャリア自律支援」について、現在そして今後どのような取り組みを予定しているのか説明した。
目の前の課題解決に集中せざるを得ないスタートアップのフェーズでは、中長期の従業員のキャリア施策を実施することが難しかった。現在、中長期での経営目標も定まったことで、ようやくキャリア施策を実行する土台が整ってきたという。
そこで、タレントマネジメントの第2ステップとして「CDP(Career Development Program)」を整備中だ。たとえば、「キャリチャレ」という社内公募制度や、社員がキャリアを考える起点となるキャリアアンケートなどの取り組みが始まっている。
組織の拡大・変革期にある会社では、「こういう経験を積んで、このポジションになれる」といった確かなキャリアを確約するのが難しい。そこで、「自己研鑽とキャリアの最終責任者は自分自身である」という主体性に重きを置いて、「チャレンジする人にチャンスを」という考え方で従業員の挑戦を後押しする。会社は機会を提供することで、従業員のキャリアを支援するわけだ。
六原氏は「まだ始めたばかりなので、これからSmartHRにフィットするキャリア支援の形を探っていきたい」と意気込みを語った。