タレマネサイクルがうまく回らない……
SHRM(全米人材マネジメント協会)の定義によると、タレントマネジメントとは、「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成、開発、報酬、後継者養成などの人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること」だそうです。ASTD(米国人材開発機構、現 ATD)の定義も似たような内容です。
このような定義から、タレントマネジメントのフレームワークをモデル化しようとすると、採用、選抜、育成、配置のような活動がぐるぐる回る「タレマネサイクル」の絵が描かれがちです。人材獲得や育成は継続して取り組む必要があることから、終わりなく回り続けるサイクル型モデルは「それっぽさ」があり、このサイクルをひたすら回すことが人事戦略だという企業もあります。
自社の人材が育つ仕組みをつくろうとする意識はすばらしいことですが、実際はうまく回っていないことが少なくないようです。また、タレントマネジメントに取り組む企業は、流行りの人事制度導入や人事施策にも取り組みますが、ばらばらの点の活動になってしまい有効活用されていない、という悩みもよくうかがいます。
うまくいかない原因は大きく2つあります。1つは、経営戦略・事業戦略と人事戦略がひも付いておらず、人事の自己満足施策になっていることです。ここでの「ひも付いている」とは、前回【人材ギャップ把握編】で紹介したとおり、経営戦略を実行するために短期・中長期に必要な人材の量と質、および現状との人材ギャップを把握して、そのギャップを解消するための人事戦略になっているという意味です。
どのような人材をどのくらい獲得したり育成したりすべきかよく分からない状態で、人事施策を進めることだけが決まっている場合、人事の各担当者は自身が関与する施策を実施することだけに注力してしまいます。その結果、タレマネサイクルの絵を描いても人事施策は点の活動となり、前後のつながりを考慮した人事施策になりません。たとえば、人材開発施策の年間カレンダーができあがっており、年間業務として毎年同じような取り組みをしているという場合は、点の活動になってしまっている可能性があります。
もう1つは、各人事施策が手段から始まっていることです。人事トレンドや有識者の助言は「手段」の紹介であることが多いのですが、その手段としての人事施策を受け売り状態で取り組み始める例がとても多いです。各施策には一般論としての目的例がセットになっているので、各施策を実施するときにそれらしい目的の説明はできるのですが、自社にとってその目的が本当に必要なのかがあまり考えられていません。
タレントマネジメントなどの人事施策はどのように位置付けると有効活用できるのか。筆者が作成した人事戦略フレームワークのLeo-sanモデルに当てはめて紹介します。