1目的を明確にする
A社の事例のように点数が低い箇所に対して手を打つ手法をとる、B社の事例のように分析に分析を重ねてしまう、といったケースは、取り組みの「目的」が判然としていないことに起因しています。
A社では、エンゲージメント(組織が向かう方向に対しての熱量・やる気)を上げるのではなく、従業員満足度(その組織や仕事への満足感)を高めているといえます。特に「業務の仕方」や「人事評価」は従業員の不満が表出しやすい項目であり、一部従業員に対して“おもねる”ような施策も打ってしまっていました。
B社では、目的を「エンゲージメントの向上」と当初は置いていましたが、設問を設計しているうちに、あれもこれもと設問を増やし、結果的に目的がぼやけてしまいました。そのため分析の視点も無数にあり、施策化につながらなくなっていました。
では、目的をどう置けばよいのでしょうか。前述のとおり、エンゲージメントは組織が向かう方向に対しての熱量ややる気を示します。つまり、エンゲージメントサーベイを実施する前にまず、エンゲージメントを高めた姿=組織が向かう方向性に熱量を上げている姿を想像し、しっかりそのイメージを合わせておく必要があります。それをベースに、エンゲージメントサーベイで何を目的にするのか(それをどのような設問で表していくか)へと落とし込んでいきます。

エンゲージメント向上の先にある、組織の目指したいことは、各企業で策定している中期経営計画や事業戦略、また、ミッション・ビジョン・バリューなどの共通の価値観をまずは確認しましょう。それらを体現できている社員の姿を想像できれば、それを表した言葉をサーベイに落とし込みます。もし想像できなければ、自分なりにどのような組織・社員の姿なのか、言語化するところから始めてみましょう。
2課題抽出をメインにした分析をする
分析の過不足には要注意です。必要なのは、目的を踏まえてエンゲージメントの結果指標を向上させるために、何が課題で、何を実施すべきかを見定めることです。
A社のように、点数が低い箇所のみに着目することは、前述のとおり社員の満足度を向上させることにはなりますが、エンゲージメント向上を目的に据えた際の課題を抽出しているとはいえません(次図はサーベイ結果の例)。

一方、B社のように、あれもこれもと分析したくなる側面はどの会社にもあります。「20代×男性×A役職×組織」のように属性を切り分け特徴を見出したと仮定します。しかしながら、この対象者に対して固有の施策を本当に打てるでしょうか。エンゲージメントを向上させるためには、分析ももちろん大事ですが、一番大事なのは施策を実行すること・実行し続けることです。そのため、それにつながらない分析はやめる必要があります。
当社では、エンゲージメントスコア(目的を踏まえた結果指標となる設問のスコア)に対して、影響する要素(キードライバーやその真因)を特定し、その中で課題を抽出しています。そうして抽出した課題に対して手を打っていけば、エンゲージメントスコアを向上させられる可能性が高いといえます。
また、それらの分析・課題の抽出は、従業員エンゲージメント向上に関する当社の知見やコンサルティング手法を学習した生成AIツールで実施しています[1]。生成AIは人間ではないため、我々の知的好奇心が入り込む余地はなく、一度決めた目的に対し、無駄なくスマートにゴールに導くための解を出します(次図はツールの分析・示唆出しの画面)。

人間の知的好奇心を否定するつもりはありませんが、ゴールに向かってまずは解を出し、本当にそれを実行することが望ましいのかどうか検討するその段階で、人間が知的好奇心を発揮する必要があるように思います。
注
[1]: 残念ながら、誰でも使用できる生成AIはエンゲージメントの知見や、統計処理の知見を十分に有していないため、分析の活用には不向きです。人間が分析を行う場合も、継続的な施策の実行につながる課題分析などを行うことを意識しましょう。