AI活用と「タレントマネジメントの民主化」が創る新時代(未来)
——テクノロジーの進化はさらに加速しています。特に生成AIは、人事労務の仕事をどう変えていくのでしょうか。
最も確実に、かつ劇的に変わるのは「社内問い合わせ」の領域です。従業員から日々寄せられる「就業規則のどこに書いてありますか?」「私の場合はどうなりますか?」といった質問。これは担当者にとっても、返信を待つ従業員にとっても、生産的な時間とはいえません。
LLM(大規模言語モデル)を活用し、社内の規定集やFAQをAIが学習すれば、人に尋ねるような感覚で質問をして、AIが正確に回答できるようになります。人事担当者は単純な問合せ対応から解放され、より付加価値の高い業務に集中できる。
これは、人事領域におけるAI活用のベストプラクティスになっていくはずです。
——他にも期待しているユースケースはありますか?
自然言語による高度な従業員検索です。大企業の人事は、膨大なデータの中から「特定の資格を持ち、かつ来月更新を迎える人」といったリストを作るのに多大な時間を費やしています。これを「該当する人をリストアップして」とAIに話しかけるだけで完結させる。こうした“データへのアクセスの容易化”は、人事のスピードと精度を大きく変えるはずです。
——そうなると、オペレーションが自動化されて生まれた時間を使って、人事労務担当者はどこを目指すべきなのでしょうか。
私は、人事こそが「最も経営に貢献できるポジション」だと信じています。テクノロジーが発達し、製品や技術がコモディティ化する時代、企業の差は「人」のポテンシャルと「組織能力」の差でしかなくなるでしょう。
リクルートやトヨタのように「人が強い」と言われる組織をどうつくるか。ヒト・モノ・カネのうち、最も不確実で、かつ可能性に満ちた「ヒト」を預かる部門が、経営戦略と人事戦略をいかに紐づけるか。そのためには、人事はルーチンワークから卒業し、CHRO(最高人事責任者)のような視座を持つ必要があります。現状、日本のCHROは経営企画や営業出身者が多いですが、これからは現場を熟知した人事生え抜きのCHROが増えてほしいですね。
——その未来に向けて、SmartHRのビジョンを教えてください。
私たちが掲げているのは「タレントマネジメントの民主化」です。本来、メンバーの才能を見出し、適材適所に配置し、育てるのは、人事ではなく現場のマネージャーの役割であるはずです。人事がすべてを背負い込むのではなく、現場が判断するための「データという武器」を私たちが提供する。
人事は、現場のマネージャーが最高のパフォーマンスを出せるよう、マネジメントレベルを引き上げる「教育者」へとシフトしていく。人事が現場のリアルな情報を手に入れ、マネージャーをコーチングする。そんな関係性がつくれたとき、日本の企業の未来はもっと明るくなるはずです。
——次の10年、その進化が人事労務の「生き方」そのものを変えていきそうですね。
10年前、私たちは「書類作成の手間」を取り除くことに全力を注いでいました。これからの10年は、「組織を動かす喜び」を人事がもっと感じられる世界をつくりたい。テクノロジーを活用し、人が「人にしかできない仕事」に没頭できる社会を目指しています。
とはいえ、SmartHRはまだ未完成です。労務の世界は本当に奥が深く、簡単に正解を出せる領域ではありません。だからこそ、一歩ずつ現場の課題に向き合いながらアップデートを重ねていきます。


