海外IT人材のリテンションに際した2つのポイント
ポイント1:候補者の働く意義に応じた企業風土改革
海外IT人材をリテンションするためには、まず彼らの働く意義を見極め、それに対して会社として全面的にサポートすることが必要である。下記図5のとおり、海外IT人材は多様化した志向性を持っていることが多く、彼らの働く動機は「報酬」「家族」「仲間・チーム」「キャリア」「成長機会」「職場環境」など多岐にわたる。一方で、多くの日系企業は未だに画一的な働き方や仕組みを採用しているケースが多く、海外IT人材を繋ぎ止めるためには各々の志向性を真摯に受け止め、日本企業自身が変わっていくことが求められている。
例えば、米国のITベンチャー企業ではリモートワークを実施し、出社は2日間程度のみで、自宅やコワーキングスペース等でのフレックス就業形態を採用している。欧米諸国では(副業を含む)パラレルキャリアが一般的にも認知され、キャリアアップの手段として浸透し始めている。
一昔前に楽天の英語公用化は大きな話題となったが、彼らのように海外人材が来日して痛感する言語の壁やコミュニティーからの疎外感等のプリミティブな課題に対して手を打つことも忘れてはならない。
ポイント2:事務関連手続きのサポート
最後に、事務関連手続きのサポートについても効果的であることを付け加えておく。これは非常に地味な話に聞こえるかもしれないが、例えば、ビザの取得手続きや会社の規定改定に伴う新居への移住(手続き・引っ越し)、家賃のデポジットの自己負担とオーナーへのデポジット返還交渉、子供の幼稚園探しや入学手続きなどが挙げられる。現地の風習が分からないまま日々の生活に直結する事務手続きと交渉を行うことは本人だけでなく、家族にとっても大きなストレスとなることを筆者は駐在期間を通じて体験した。例えば日系大手製造業では、こういったきめ細やかな対応を行うための専門部署があったり、一部をアウトソースしたりしながら従業員の負荷を減らしている。家族と共に海外に居を移し、働くということは大きな変化となるため、会社全体でバックアップする仕組みの構築が望ましい。
おわりに――今後の日本企業のさらなる飛躍に向けて
今回は海外IT人材の活用にフォーカスし、多少泥臭い部分も含めて採用・リテンションの方策および実施する際の力点を紹介してきたが、実際に海外IT人材を活用していく段階になると、会社全体で役割や職務(Job Description)の明確化、要員計画、海外人材のベストミックス把握や風土改革等、様々な対応を行わなければならないだろう。
一方で、この手の取り組みに関しては「言うは易く行うは難し」であるが故に、上記のような論点や議論にとらわれすぎず「まずは実際にやってみる、そのための一歩を踏み出す」ことが何より大切であると筆者は考えている(仕組みは後から構築してもよいだろう)。 本稿が海外IT人材の活用のきっかけとなり、日本企業の更なる飛躍の一助となれば幸いである。