データ分析の結果を実際に活用するシーンも想像せよ
仕事と学習プロセスを一体化して人材育成を行う企業が登場する一方、採用の現場からは「経歴やスキルは素晴らしい人材でも、配属先での仕事の進め方に馴染めずに定着できないケースが散見される」「データ活用人材の採用・育成がうまくいっている会社があるのか。本当にあるならば話を聞いてみたい」など、人材育成に懐疑的なコメントを聞くこともあると摂待氏は打ち明ける。
加えて、データ分析に関するスキルを身に付けることに意欲的な人材側からも、「どこからどこまで勉強すればよいのか」「頑張ったのに評価してもらえないのはなぜか」といった悩みの声を聞くという。確かにデータサイエンティストやAIエンジニアを目指そうとすると、エンジニアリング知識に加えて、統計学・機械学習に関連する数学や、ビジネス知識まで幅広い知識が求められる。若手からすると、建築家ガウディが設計した「サグラダ・ファミリア」の建設に例えられるくらい、長く険しい道に見えるのも無理はない。
摂待氏は、データ分析組織のリーダーを長年務めた河本薫氏(滋賀大学データサイエンス学部教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長)の言葉を引用し、「会社に対するバリューを示すこと、ビジネス課題を分析の出発点にすること、データ分析とKKD(勘と経験と度胸)のいいところ取りが必要になること」をアドバイスした。
また、経営層の肝煎りでデータ分析がスタートすることはよくあるが、ビジネス課題を明確にしないままプロジェクトを進め、失敗することは少なくない。例えば、農機具メーカーの開発リーダーが「機械学習を活用し、新しい機能を搭載した製品を開発し、業績を伸ばしたい」と社長に言われたとしよう。仮に決められたエリアをスケジュール通りに耕作する「自動運転機能」を実装できても、肝心の農家から「怖い」と思われるようでは、新製品は市場に受け入れられない。そうならないようにするためのチェックポイントとして摂待氏が挙げたのは、「実現できないことを理解しているか」「必要性や存在意義が明確化しているか」「適切な問題解決アプローチになっているか」の3つである。
実現したい価値と状況を踏まえると、データ分析やAIが適切な問題解決手段とは限らない可能性もある。例えば、業務フローがマニュアル化できて処理件数が少ない場合には、RPAのほうが適していることもあるし、高額な投資が必要になることを勘案すると、アウトソーシングが有力な選択肢になるかもしれない。要は、何もかもAIで解決しようとしないことだ。