DX人材の育成は「DXとは何か」を理解することから始まる
――CompTIAでは、日本企業におけるDX人材の育成状況をどのように見ておられますか?
コロナ禍において、DXというワードに対する注目が急激に高まっていると感じています。100以上の組織の方々にヒアリングをする中で、「DXを推進する人材をどう育てればよいのか分からない」とご相談いただくケースがとても多いです。にもかかわらず、DXという言葉の意味するものは、組織ごとに大きく異なっているというのが、このワードの厄介なところです。
当初は各社の課題やゴールに沿ってアドバイスをしていたのですが、何かしらの共通項を見出して、分かりやすく体系化する必要があると感じるようになりました。そこで、CompTIA米国本部のチーフテクニカルエバンジェリストの協力を得ながら、DXの本質を皆様と共有し、日本国内におけるDX人材の育成方法を提示しようと考えました。
――DXを定義するところから始められたのですね。
はい。私たちがたどり着いた答えは、まず「ビジネス(経営資源)を分解すること」、そしてそれをもとに「手段としてのIT・ICTでビジネスを結びつけ直すこと」、この2つが揃って初めてDXは成り立つということです。逆にいえば、手段としてRPAを使いこなすだけ、デザイン思考やDevOpsを学ぶだけ、スクラムを導入するだけでは、DXとはいえません。この結論の下、フィールドワークを通して多くの皆様へヒアリングを行い、エバンジェリストの知見も得て、次のようなワークフローにまとめました。
――米国本部のエバンジェリストの定義をそのまま活用しなかったのは、なぜですか?
このワークフローを見ていただくと分かるとおり、「セールスアプローチ」から始まって、お客様のニーズを理解した上で「ビジネスアナリシス」につなげていき、経営計画や要求定義をしたら開発や構築、実装の「プロジェクトマネジメント」に入っていく、という通常のITのワークフローとほとんど変わらない要素で構成しており、職種は書いていません。
育成方法を検討するにあたり、米国本部のエバンジェリストからもらった資料は、6つのエリアに特有の職種を割り当てる形になっており、そのままだと日本国内では定着しないだろうと感じました。 “DXオペレーションマネージャー”とか“DXプラットフォームソリューションエンジニア”といわれても、何をする職種なのか、私たちにはまったくピンと来ませんよね。そもそも職種のイメージが湧かないのに、「この職種に必要な能力はこれです」と提示したところで、役立てられるはずがありません。そこで、エバンジェリストにも相談し、DXの進む流れから考えることにしました。
――では先ほどお話しのあったDXの定義である「ビジネスを分解して、IT・ICTで結びつけ直す」というのを具現化したのがこのワークフローであるわけですね?
そうです。黄緑色の「プロジェクトマネジメント」のところは、自動化と効率化の共通基盤であるクラウドの上に、各企業の必要に応じて「セキュリティ」「アプリ」「5G」「AI」「データ」といった技術を載せていくイメージです。ここで完成したシステムやサービスで生み出されたデータを運用したり管理したりするのが、青緑色の「サービスマネジメント」になります。ここまでいけば、再びオレンジの「ビジネスアナリシス」に戻り、生み出されたデータを基に、再びビジネスを結び付け直し、ぐるぐる回し続けていきます。