本記事の前編はこちらから。
1次情報に触れることから始めよう
――リスキリングに向けたプログラミング学習を進める上で、注意すべきポイントはありますか。
児玉浩康氏(以下、児玉) 一番は「全員一斉にスキルを付けよう!」をやめるべきだと思います。希望者が80人いるなら、書類選考などによって実際の受講者は30人に絞る。「希望者>受講者」として“受講したくてたまらない”というある種の飢餓感を持つ本気度の高い受講者だけにすることです。受講時間を業務時間外に設定するのも一つの有効な方法でしょう。従業員側に“やらされている感”があっては、せっかく受講してもまったく身になりませんから。
宮林卓也氏(以下、宮林) そうですね。飢餓感をあおるという意味では、受講者の業務に直結した内容にすることが大切だと思います。例えば、インターネット広告代理店の営業の方であれば、CSSやHTMLを触れると、お客様先でのコミュニケーションコストを大幅に下げられるじゃないですか。「学んだ結果、何かしらの改善ができた」という成功体験を積んでもらわないと、学習効果は薄れてしまうと思います。
――業務に直結した研修内容にするには、人事が正しく各部門のニーズを把握しておく必要がありますね。
宮林 はい。私はHR出身なのでよく分かるのですが、人事には2つのパターンの方がいると思っていて。一つは、空き時間を見つけて、とにかく現場に足を運ぶ人。現場の人と密にコミュニケーションをとって、社内の現状を把握しながら、経営層の意思を浸透させる通訳者になれる人です。そして、もう一つは経営層の腰巾着のように、上から言われたことだけしかやらない人。この場合、「現場のことなんて何も分かっていないくせに」「なぜお前の実績のために研修なんて受けなければいけないんだ」と反発されてしまいます。そうなると、研修の価値がなくなるので、日頃から人事の方が現場と信頼関係を構築しておくことは、とても重要です。
樋口隆広氏(以下、樋口) あとは、単発の研修で終わらせないことも大切だと思います。目標レベルに到達するためのロードマップを長期的な視点で描いておく。具体的には、事業や業務プロセスにプログラミングを活用してどのような変化を起こすのか、いつどの部署の社員に学んでもらうのか、などです。一度の学習で成果が出るものでもないので、すぐに意味がなかったと捉えてしまうと、絶対に続きません。年間予算で「とりあえず今年はこれをやりましょう」というやり方をしていると、継続性がなくなりますし、学習習慣も身に付きません。
宮林 本当にそうですよね。英語だと「1〜2ヵ月やったところで、ペラペラになるわけがない」のは当然のことだと理解されているのに、なぜかプログラミングになると、「1度研修を受けさせれば、誰でも使いこなせるようになる」と思われているじゃないですか。プログラミングも言語なんですから、継続学習を前提にしない時点で、すでに失敗は見えていますよ。
樋口 プログラミングはスキルというよりも“文化”に近いですからね。テクノロジーに対する企業としての意識の表れというか。特定のことができるようになったかどうかだけで判断するものではないですし、文化醸成の一環として社内に浸透させていくべきものだと考えています。
河野英太郎氏(以下、河野) まさに。デジタルの文化醸成ですね。だから、プログラミング研修にかかるお金は、費用ではなく投資だと気づくべきなんですよ。コストを抑えたら評価されるというCIOの評価制度から変えていく必要があります。