1. 事件の概要
原告(以下「X」)らが、被告(以下「Y法人」)に対し、平成13年4月のY法人の就業規則の改定により、Y法人に勤務するXらの賃金を50%カットしたことを違法無効として争い、就業規則改定前の従前賃金との差額を支払うように求めた事案です。
(1)当事者
Y法人は、船舶貨物の積み込みや陸揚げの際に行う貨物の個数または容積・重量の計算および証明(検数業務)を業とする公益社団法人であり、我が国における代表的な公認検数機関の1つです。
Y法人は、全国の主要な国際港に10の事業所(以下「支部」)を置いています。
Xらは、Y法人の10事業所の1つである神戸支部に勤務する従業員であり、「検数人」として、検数・検量等の業務に従事しています。
また、Xらは、職能別組合である全国検数労働組合連合(以下「検数労連」)傘下の「全日検神戸支部労働組合」(以下「神戸支部労組」)に所属する労働組合員です。
なお、X本人は、平成13年1月から同年2月末まで一時帰休制度の対象となり、同年3月2日から7月15日までは病気休業し、同年7月16日に職場復帰しています。
(2)Y法人の状況
①Y法人の事業収入の減少
産業の国際化および国内産業の低迷化、国際物流における輸出入貨物の輸送革新・輸送形態の変革等により、Y法人の検数対象取扱貨物量は徐々に減少してきました。
Y法人全体の取扱作業量は、平成元年度には1億5081万5000トンあったのが、平成12年度実績では1億840万7000トンと、28%減少しました。
また、平成12年11月に実施された検数・検量事業等の一部を除く港湾の規制緩和の潮流に伴い、港湾運送事業者間における業務受託コスト競争が激化しました。
Y法人の事業収入は、平成3年度の約280億2539万円を頂点とし、年々減収の一途をたどり、特に阪神・淡路大震災以降、減収幅は拡大しました。平成6年度の276億3580万円から、同12年度の201億6044万円へと、7年間で約75億円の大幅な減収となりました。
なお、平成13年度の事業収入は、同12年度より約17億700万円減少(前年比約8.5%減少)しました。
②神戸支部の収支等
神戸支部の取扱作業量は、平成元年度実績の2217万1000トンから、平成12年度実績の1203万8000トンまで落ち込みました。とくに、平成元年度から平成5年度まではほぼ横ばいだった取扱作業量が、阪神・淡路大震災が発生した平成6年度には、前年度の2189万7000トンから1781万5000トンヘと激減しました。
上記取扱作業量の減少に伴い、神戸支部の事業収入は、平成元年度の49億7329万4000円から、平成12年度には約半分の26億3024万7000円へと落ち込みました。
神戸支部の収支については、平成4年度に252万5000円の黒字となったほかは、平成元年度から同12年度まで全て赤字でした。とくに、阪神・淡路大震災の影響により、平成6年度の事業収支は、前年度のマイナス1億179万1000円からマイナス5億529万円へと、赤字が大幅に増大しました。
このような神戸支部の収支悪化の主な要因は、繰り返し述べているとおり、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災でした。
その後の神戸港の復興により、平成8年には、同港の外貿コンテナ取扱量は3195万6717トンまで増加したものの、平成10年には、長期化する国内経済の低迷とアジア地域の通貨危機に伴う経済不振の影響を受けて、国内主要港は軒並み大きく落ち込みました。
一方、平成11年・同12年には、アジア経済の回復基調により各主要港とも増勢が続き、神戸港でも3年ぶりに3000万トンを超える実績となりました。
しかしながら、Y法人の平成13年2月の神戸港における外貿コンテナ貨物取扱量は、コンテナ個数ベースでは輸出入合計で前年同月比10.8%減、トン数ベースでは11.5%減でした。平成13年度上半期のコンテナ取扱量は、対前年比17%減と急激に減少しました。
(3)本件賃金カット
Y法人は平成13年4月1日、神戸支部につき、「平成13年4月1日から同16年3月31日まで、基準内賃金(本給、役付手当、特技手当、家族手当、住宅手当)の支給額を50%(平成13年4月1日現在の満年齢が41歳未満の者は30%)引き下げる。ただし、本給、役付手当、特技手当および住宅手当の合計額が15万6300円に満たない場合には、その差額を調整手当として支給する」旨の就業規則の変更(以下「本件就業規則変更」)を行い、平成13年4月分給与(平成13年4月25日支払い)から、Xらを含む神戸支部労組従業員に対して、これを実施しました(以下「本件賃金カット」)。