ハーネスのもう半分、「基準と権限」を言語化するときの4つのポイント
ここまで、AIネイティブ組織をつくるうえで、AIの出力を安定させるためのハーネスがいかに重要でその半分はデータベースが担うことをお伝えしてきました。
ではもう半分の「基準と権限」について、重要な人事の役割をお伝えします。それは、言語化です。ハーネスの基準を考える際の狙いは1つ、AIが判断に困ることを極限まで減らすこと。それを踏まえて、人事になじみのある言葉で4つに整理しました。
- 判断基準:行動指針を、AIが判断に使える粒度まで下ろす。「顧客志向」ではなく「値引きを前提にした提案はしない」のように、行動の是非で書く
- 良い/悪いアウトプットの定義:AIに任せる成果物ごとに「良いものの条件」と「出してはいけないもの」を書く。評価基準づくりと同じ作業
- 権限とエスカレーション:「絶対にしてはいけないこと」を最初に書く。商談のお礼メールを即送ってよいのか、提案書までつくって送ってよいのか、どこまで自動で実行してよいかを決める
- Company Brainに入れる記録の範囲:AIに参照させる記録は何か、誰がどこまで見てよいかを決め、権限を管理したデータベースに置く
これらの基準・権限とデータがハーネスとして揃っていれば、AIに任せた部分の品質は、入社1日目の新人が使っても5年のベテランが使っても、理論上は同じになります。
ここで注意点が2つあります。第1に、ハーネスはつくって終わりではありません。言語化し、記録を集めて構造化し、日々のアウトプットから差分を拾って更新し続けることが重要です。第2に、AIがつくったものは人がレビューしなければなりません。筆者もAIが生成したレポートをチェックせずに使って迷惑をかけた経験があります。ただし、レビューの工数が大きいままなら、その仕組みは使い物になりません。そのため、評価基準を先に書き、レビューの一部もAIに担わせ、人が最後に見る範囲を意図的に狭めていく。それが、ハーネスを育てるということにもつながります。
明日からの一手——新入社員用の文書を使ってAIにやらせてみよう
最後に、本稿のまとめと明日からの一手を紹介します。
まとめ
- AIの出力が微妙なとき、疑うべきはAIではなくハーネスである。ハーネスは「基準・データ・権限」の3つで成り立ち、実行時の制御まで含む
- 会社の意図を行動に変える手段は、人事制度(人)→SaaS(業務)→ハーネス(AIの実行)と変化してきた。第3世代であるハーネスは前の世代を否定せず、人事制度設計者が行ってきた言語化という作業そのものがハーネスの中身になる。人事評価はハーネスの原型となる
- ハーネスは「基準」「記録」「権限」でできている。記録を一箇所に集めたデータベース(Company Brain)がなければ、AIは動けない
- 何を記録し、また誰に何を見せるのかを決めるのは人事の仕事。情報の透明化がAI定着の鍵となる
明日からの一手
2つあります。1つ目は「ルール」について。貴社が新入社員に渡している「うちのやり方」が分かる文書を1つ選び、社内で利用が承認されたAIに読ませて、
2つ目は「記録」について。直近1ヵ月の会議の議事録を、1ヵ所にまとめてください。最初はフォルダ1つで構いません。同じAIに、その議事録を読ませたうえで同じ実務をやらせてみる。ルールだけを渡したときと、記録も渡したときで、出力がどう変わるか。その差が、Company Brainの価値です。集める記録が増えてきたら、データベース化と権限設計を情報システム部門と相談する。それがCompany Brainの第一歩であり、「何を記録し、誰に見せるか」を決める人事の技術がそのまま使える仕事です。
次回は、AIネイティブ組織の3つ目の要素「AIを働かせきること」を扱います。ハーネスとCompany Brainを整えた土台のうえで、AIにどこまで仕事を任せ、人はどこに比重を移すのか。人件費とAIの利用料を同じ枠で見る考え方と、「AIを使わないこと」が機会損失になる時代の、人事の役割を書きます。
この記事は参考になりましたか?
- 関連リンク
- AIネイティブ組織へ——人事が主役の「組織OS」アップデート連載記事一覧
-
- 「AIの出力が微妙」を一変させる組織の“ハーネス”とは?人事のスキルがAIネイティブ化の鍵...
- トップの熱狂をどう設計するか——経営者をAI導入の「当事者」に変える人事の動き方
- なぜAI導入の成否が人事にかかっているのか?AIネイティブ組織をつくる「組織OS」という視...
- この記事の著者
-
森 謙吾(モリ ケンゴ)
AINative株式会社 CEO
元PwCコンサルティング 人事コンサルタント / 人事評価SaaS「ハイマネージャー」創業者
慶應義塾大学法学部卒。PwCで4年、人事制度コンサルティングに従事。その後、人事評価SaaS「ハイマネージャー」を創業し、創業から約5年の経緯を経て、2023年にキュービック株式会社へ...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

