前回は、AIのアウトプットの質を決める実行・制御の仕組み「ハーネス」について解説しました。本稿は、前回の記事に収まりきらなかった「2つの重要な観点」をお伝えします。1つ目は、AIを自走させるための「TDD(テスト駆動開発)経営」という考え方。そして2つ目は、AIが自律的に組織を動かすようになったとき、「人」に何が残るのかという組織構造の未来です。
AIネイティブ組織の“正体”とは——TDDを経営に持ち込み、ループを回す
前回紹介したハーネスの3つの中身(「基準」「データ」「権限」)をそろえる際に、筆者が最も重要だと考えているのは「あるべき状態」を先に定義することです。
開発の世界には、TDD(テスト駆動開発)という手法があります。正解をテストとして先に書き、テストが通るまで改善し続ける。筆者はこれを、AIネイティブ組織の経営にそのまま持ち込み、「TDD経営」のループを回すべきだと考えています。
理由は単純で、ゴール(正解)を知らないAIは走れないからです。どれだけ高性能なGPSとマラソンの知識があっても、スタートとゴールが決まっていなければ、現在地との差分がわからず、何もできません。AIはゴールを推測できますが、決めてはくれません。到達点を決めることは、経営者(人間)の仕事です。
差分を出すには、現在地が要る。その現在地をAIに教えるのが、会社の記録「Company Brain」です。ハーネスのうち、基準と権限が「どこへ行くか、どう動くか」を渡し、データ(Company Brain)が「今どこにいるか」を渡す。この2つがそろって初めて、AIは差分を出し、次の一手を立案し、結果を受けてまた修正するようになるのです。
「TDD経営」で回すべきループとは、次の5段階です。
- あるべき状態(ゴール)を明確に定義する
- 良いアウトプットの基準(テスト)を書く
- ハーネス(ルールとCompany Brain)を読んだAIが動く
- 現在地との差分を出し、アウトプットが基準を満たすまで改善する
- 結果を記録に戻し、ハーネス自体を更新する
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この5つ目が「クローズドループ」といい、とても重要です。結果が戻らないAIは賢くなりません。「AIが立てた戦略で受注できたのか」「売上は増えたのか」といった結果をAIに渡し続けましょう。
そして、成果を評価するには「良い状態」と「悪い状態」の定義が必要です。TDD経営では、一周回って、目標設定と評価基準づくりが最も大事な仕事になります。人事は、ここに既視感があるはずです。「目標設定→実行→評価→フィードバック」という人事が大切にしてきたこのループが、人ではなくAIで、年単位ではなく時間単位で回るようになる。
これが、「組織OSがAIネイティブになる」ことの正体だと筆者は考えています。
筆者自身、毎日AIと振り返るようになってから、年末に1年を振り返る必要がなくなりました。人事評価で「期末にまとめてではなく日々フィードバックする」と言われてきたことが、AIで本当にできるようになった。筆者の会社では、会議が終わると議事録がCompany Brainに入り、朝には「今日やるべきこと」が目標との差分として上がってきます。ここまで来て初めて、ハーネスは「文書」から「経営の仕組み」になります。
ここで2つ注意点があります。第1に、ハーネスはつくって終わりではありません。言語化し、記録を集めて構造化し、日々のアウトプットから差分を拾って更新し続けることが重要です。第2に、AIがつくったものは人がレビューしなければなりません。筆者もAIが生成したレポートで他者に迷惑をかけた経験があります。ただし、レビューの工数が大きいままなら、その仕組みは使い物になりません。だから評価基準を先に書き、レビューの一部もAIに担わせ、人が最後に見る範囲を意図的に狭めていく。それが、ハーネスを育てるということです。
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森 謙吾(モリ ケンゴ)
AINative株式会社 CEO
元PwCコンサルティング 人事コンサルタント / 人事評価SaaS「ハイマネージャー」創業者
慶應義塾大学法学部卒。PwCで4年、人事制度コンサルティングに従事。その後、人事評価SaaS「ハイマネージャー」を創業し、創業から約5年の経緯を経て、2023年にキュービック株式会社へ...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


