IPO前のスタートアップ企業における管理部門の実態は
岡本勇一氏(以下、岡本) 加藤さんは、監査法人でIPOおよびVC監査などに従事された後、IPO責任者として入社された2社を連続でIPOされています。1社目のIPOが経営管理部長として2015年で後に執行役員に、2社目が取締役として2018年と、その若さで連続IPOさせた経営幹部とは、本当に稀有な存在だと思います。そんな加藤さんが、IPOを希望する会社の支援も含めたIPOを普及啓蒙する目的で、IPO協会 轟を立ち上げられたと伺い、一緒に盛り上げていければと思っています。
さて、IPOを目指す企業のCFOとしては、管理部門の人材確保・定着・活躍も大切な役割の一つかと思いますが、そのための施策としてのオンボーディングは、どのような状態をゴールとするのか。目指すべき具体的なイメージはありますか。
加藤広晃氏(以下、加藤) ゴールについては、管理部門の中でもいろいろあるので、なかなか難しいところではあります。私は管理部門の役割として、企業として「理想像を求める」ことと、上場企業として「形を整える」ことの2つあると考えています。そして、そのそれぞれを担う部門を、企業の組織やあり方をアートとして創意工夫する「経営企画・広報=デザイン系」と、企業として答えがあるものに対応する「労務・財務・法務=守り系」の2領域に分けて捉えています。オンボーディングのゴールは、「それぞれの領域において自走できるようになること」といえるでしょう。
ただ、普通の会社でも組織や業務、文化などになじませていくのに難儀するのに、急成長中で変化の激しいIPO前のベンチャー企業で定着させていくのは本当に難しいこと。追いつけない、振り落とされるという人も少なくありません。その辺りはオンボーディングのしがいがあるともいえますね。
岡本 IPOを目指すスタートアップでは、具体的にはどのようなオンボーディングをされるのでしょうか。また、どのようなタイミングで始められるのですか。
加藤 私の経験上、スタートアップの創業時は、とにかく事業を軌道に乗せるのに必死で、人を育成している余裕などありません。「勝手に育つ」人がそれぞれ自走している状態です。事業内容や組織にもよりますが、創業から5年くらいまではどの部門も新卒採用は難しいし、管理部門を充実させるのはそれ以降でしょう。特に管理部門の人材は育成に時間がかかるので、6〜7年目くらいからだと思います。
岡本 管理部門の人材向けにオンボーディング用のカリキュラムは作成されるのですか。
加藤 新卒用のカリキュラムは、経理部門なら財務三表からはじまり、法務部門なら民法や契約書などが基本になります。ほぼ上場企業でも同様の内容で、ベンチャーだから特別な内容というわけではありません。
ただ、中途採用のオンボーディングとなると、ベンチャー企業の場合、組織のカルチャーや事情などの情報共有が重要になってきます。というのも、上場企業とは違い、管理関係の情報も業務も整理されていないことがほとんど。意図的でなくても虚偽表示などがあれば、経験があるプロフェッショナルほどもやもやしてしまう。「こんなことすらできていないのか!」と驚くこともあります。そうしたことが山積みになっていると苦に感じて辞めてしまう人もいます。これを「ベンチャーの耐性がない」というのかもしれませんが、人生をかけて入った人や見つけ出してきた人事担当者にとってはすごく残念なこと。そこで、中途採用でカルチャーフィットの一定の目線ができるまでは、人事にも伴走してもらいながらオンボーディングを行うべきだと思います。