スピーカー
田中 研之輔(たなか けんのすけ)氏
法政大学 キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/株式会社キャリアナレッジ 代表取締役
一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学/博士:社会学。UC. Berkeley元客員研究員。University of Melbourne元客員研究員。
著書29冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。
モデレーター
林 幸弘(はやし ゆきひろ)氏
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員/ISO 30414リードコンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。現在はリンクアンドモチベーショングループのR&Dのほか、全社の経営戦略の立案・推進を担う。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。
組織内キャリアから自律型キャリアへの転換
「キャリア」という言葉を「今までやってきたこと」と捉えている人は少なくない。しかし、最新のキャリア開発では、今までやってきたこと以上に、これからやっていくことにフォーカスする。社員がやってきたことに向き合うのは従来型のキャリア開発で、社員の未来に目を向けるのが最先端のキャリア開発ということだ。
田中氏は、キャリア開発の現状を「組織の中でキャリアを育てる組織内キャリアから、一人ひとりが自らキャリアオーナーシップを持って主体的に仕事をしていく自律型キャリアへとシフトしている」と捉えている。そして、自律型キャリアの「自律」とは、「個人と組織のより良い関係性を作っていく行動である」と補足した。
では、社員が自律するとどんなことが起きるのだろうか。田中氏は、パーソル総合研究所が行った「従業員のキャリア自律に関する定量調査」を引用して説明する。次のスライドは、青がキャリア自律度の低い人で、赤がキャリア自律度の高い人を示している。キャリア自律度の高い人は、個人のパフォーマンスも上がり、ワークエンゲージメントも上がる。加えて、学習意欲や仕事充実感も高まり、ひいては人生満足度も上がることが分かる。
「人的資本経営元年」ともいわれた2022年、田中氏は「まさに今、自律的なキャリア開発が求められる潮目が訪れている」と言う。そして、「SDGs」ならぬ、「SDCs(Sustainable Development Careers)」を唱える。
「キャリア開発も、持続的な開発目標であるSDGsと同じ考え方でいいんです。つまり、キャリアもサスティナブルにデベロップしていく。それぞれが自分のペースで、じっくりと持続的にキャリアを育てていきましょうという考え方です」(田中氏)
経営者は「経営戦略」「事業戦略」「キャリア戦略」の3つの戦略を策定すべきだが、多くの企業で抜け落ちているのがキャリア戦略だと指摘する田中氏。「一人ひとりの社員のキャリア自律性を高めるキャリア戦略なくして、人的資本経営がうまくいくことはない」と続けた。
そして、キャリア戦略を策定する第一歩は、「何が社員のキャリアを停滞させているのか」というキャリアブレーキを探しにいくことだと言う。
「キャリアブレーキを特定したら、それを1個1個外していきます。予算が必要になることもありますし、日々の行動に寄り添うことで外せる場合もあるでしょう。キャリアブレーキを外していくと、徐々にキャリアアクセルを踏めるようになっていきます」(田中氏)