人的資本開示の先進企業が「従業員エンゲージメント」を重視するワケ
人的資本開示に向けて、まず企業がすべきことは「アウトプット指標(KGI)」を設定することである。参考までに国内外の人的資本の重要指標を並べてみると、「従業員エンゲージメント」を挙げている企業が非常に多い。山中氏も「人的資本開示にいち早く取り組んでいる企業ほど、従業員エンゲージメントを大切にしている傾向が顕著に見られます」と指摘する。
従業員エンゲージメントの解釈はいろいろあるが、「企業と従業員の相思相愛度合い(会社への愛着や、仕事への情熱の度合い)」と理解すると分かりやすい。エンゲージメント(結びつき)が強ければ強いほど、パートナーシップと同様に、企業と従業員の関係性は良好なものになる。逆に、エンゲージメントが希薄になれば、関係解消(=退職)に至ることは言うまでもない。
「なぜここで働きたいのか」という帰属意識にも影響を与える従業員エンゲージメントは、どうすれば高められるのだろうか。リンクアンドモチベーションでは、次の4Pとして定義しているという。
とはいえ、4Pすべての要素をパーフェクトに満たせる企業はないと山中氏。「自社がどこに注力して、どこで勝っていきたいのか。これを戦略的に決めることをしない限り、うまくいきません」と説く。
そして、さまざまな研究結果から、従業員エンゲージメントの向上がもたらす効果には次表の5つがあるとして、「従業員エンゲージメントの向上と事業成果の向上には相関性が認められており、人的資本経営の中の重要指標として取り組むことは、非常にリーズナブルです」と強調した。
<従業員エンゲージメント向上がもたらす事業成果>
①労働生産性の向上 | 「エンゲージメントスコア」と「労働生産性」には正の相関が見られ、スコアの上昇に伴って、労働生産性(指数)は上昇することが分かっている。 |
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②営業利益率の向上 | 「エンゲージメントスコア」と「当期の営業利益率」には正の相関が見られ、スコアの上昇に伴って、営業利益率は上昇することが分かっている。 |
③退職率の低下 | 「エンゲージメントスコア」が高い組織ほど、「退職率」は下がる傾向が見られ、また特にミドル層の退職率低下にも寄与することが分かっている。 |
④顧客満足度の向上など | エンゲージメントが高いと、遅刻や早退の減少、事故の減少、商品欠陥の減少、顧客満足度の向上などの効果があることが分かっている。 |
⑤株価の向上 | BIPROGY(旧 日本ユニシス)では、エンゲージメントスコアの向上に従い、営業利益、営業利益率、ROE(自己資本利益率)が向上。統合報告書でも人的資本に関する投資を開示している。 |
- ※①②③はリンクアンドモチベーションと慶應義塾大学岩本研究室(当時)との共同研究結果より
- ※④はギャラップ社『State of the Global Workplace Report』研究結果より
- ※⑤はダイヤモンド社ハーバードビジネスレビュー誌『経営の未来』より