コンディションデータの可視化と分析例
ストレス、モチベーション、メンタリティなど多様な概念とプロダクトがHR Tech市場にすでにあふれており、またタレントマネジメントシステムの一機能としてセットされていることも多いのではないでしょうか。週次・月次など頻度の差はあれど時系列データとして扱い、横軸に日時、縦軸にコンディションの高低を設定した折れ線グラフで、新人若手メンバー個人のコンディションの上下動を可視化することはすでに定番化していると思います。こういった実際のメンバー一人ひとりに焦点を当ててコンディションを可視化するデータ活用は、特に現場の組織長が閲覧し、コミュニケーションやマネジメントに直接活かすことが多いでしょう。
このようなシンプルな可視化だけでも、今まで表出されてこなかった新人若手の内面の変化やその背景に気づくきっかけになります。一方で、可視化からもう一歩進んだデータ活用をしてみたい、という方向けに一例を挙げてみましょう。
図表01は、個人のコンディション推移(4月~3月)を、非階層型クラスタリングk-meansにより5パターンに大別したものです。クラスター分析とは、データ全体の中から似たもの同士をグループ分けする手法の1つです。こういった類型化のための分析手法を使うことで、一人ひとりのデータからは見えてこなかった傾向や示唆があぶり出されることがあります。
たとえば次のような示唆から、人事として特に気をつけたい時期や打ち手のタイミングなどを大局的に検討できるようになります。
- パターン1のように高コンディションを維持しているタイプ以外は、すべて4月がピークで多かれ少なかれコンディションが低下している
- パターン4や5のように、4~9月にかけて急激に悪化しているケースが存在する一方で、パターン2や3のように年間を通して緩やかな低下をたどるケースもある
- パターン3は当初パターン4よりも低いコンディションにもかかわらず、9月を境にコンディションが上昇・維持に転じて持ち直している など
実際には、事業や職場によって季節的なイベントや繁閑なども異なるでしょうから、各社の状況に応じて最適な切り口をぜひ考えてみてください。
データ活用における注意点
コンディションデータのような時系列データを見ると、株価予測のように機械学習を用いて将来の上下動を予測できないか、と考える方もいるでしょう。本連載第3回でも紹介したアプローチ別分析手法のうち、予測的分析に該当するものですが、これにはいくつか注意しておくべき観点があります。
まず、過去の上下動の動きを学習し将来を予測するためには、大量の時系列データセットが必要です。それこそ毎日・毎時間・毎分などの高頻度で取得したデータでないと精度の高い学習は難しいでしょう。しかし、実際にコンディションデータを取得するタイミングは、(各社・各プロダクトによってさまざまですが)頻度高くとも週次や月次で、大半が3ヵ月・半年といったスパンなのではないでしょうか。
また、予測的分析の最終的な活用として、個人のコンディション低下リスクを予測し、事前に予防施策を打つことが考えられますが、機械学習などによって個人をラベリングする際には、個人情報であるコンディションデータの利用用途(同意取得済みのもの)に沿った内容であるか、また予防のためとはいえ個人にとって不利益なラベリングと受け取られないかを検討のうえ、実施する必要があります。
機械学習や予測に踏み込む際には、これら2点に注意してデータを活用しましょう。