苦境を乗り越え再建にめど立つも、採用活動に苦戦
——まず、「人的資本レポート“クリップ”2023年版」を作成することになった経緯を教えていただけますか。
話が持ち上がったのは、2022年の秋頃でした。採用活動に苦戦を強いられていた時期です。2019年の経営危機のニュースが尾を引き、検索エンジンで当社の名前を入力すると、ネガティブなキーワードばかりがサジェストされる状態にありました。
そうなると、求職者からは「エージェントから紹介されたけれど、調べてみたら良い噂がないようだから、面接を受けるのはやめておこう」と思われますし、エージェントからも「どうせ紹介しても話が進まないから、紹介するのはやめておこう」と判断されてしまいます。
しかし会社の実態は、すでに再建フェーズは終わっており、再成長に向けて取り組んでいます。さらに、エージェントに当社の福利厚生を含めた人事制度や人的資本戦略・考え方を説明すると評判が良い。そこで、「我々の“いま”を広く伝えるための方策として、採用版ホワイトペーパーのようなものがつくれないか」と考えたことがきっかけでした。
——会社が再成長のフェーズに入り、再び採用に力を入れようと思ったら、なかなか思うように進まない現状が見えてきたというわけですね。
まさに。採用が厳しい状況をCEOの秦に伝えたところ、ちょうど人的資本の情報開示が話題の時期だったこともあり、「うちには他社と比べても遜色のない制度や人的資本がいっぱいあるんだし、せっかくなら人的資本レポートをつくってみたら」と言われたのです。
正直はじめは、「人的資本レポートを作成する意味はあるのかな?」と思っていました。しかし、開示自体を目的とするのではなく、「我々の現状を正しく知ってもらうことを目的とするならば、きっと価値あるものにできるだろう」と思えてからは、とても前向きになれました。
人的資本レポートで採用課題を解決できるか
——人的資本レポートを公開することで、当初の課題である採用難は解消できると思っていましたか。
作成にあたって期待していた効果は、大きく2つありました。1つは、求職者が客観的な数字を交えて他社と比較しながら、正しく当社を理解できること。エージェントが当社を紹介する際にも、役立つのではないかと考えていました。
もう1つは採用以外の面で、社員や社員の家族に当社の実情を知ってもらって、エンゲージメントを高めることです。家庭で、「あなたが働いている会社はこんなに良い組織なんだね」「こんな制度があるならちゃんと活用してよ」といった会話が生まれたり、社員自身が「うちの会社はちゃんと復活しつつあるんだな」と実感したりするきっかけになったらよいなと思っていました。