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TalentX鈴木貴史の“タレントアクイジション”トーク | #5

なぜ三井住友海上は「ジョブ型」ではなく「スキル型」を選んだのか? 社員のエネルギーを引き出す人事戦略

北浦 汐見[写] / 市古 明典(HRzine編集長)[著]

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 不確実性が高まる現在のビジネス環境。損保業界もその波から逃れることはできないようだ。三井住友海上火災保険株式会社は顧客と社会に新たな価値を提供するため、従来の仕事のやり方を根本から変えなければならないと危機感を募らせている。そこで選択したのが「スキル型人事制度(※)」であり、4年に1度全社員にキャリアの意思決定を求める「ポストチャレンジ制度」、タレントプールを活用した能動的な採用活動などだ。本記事では、三井住友海上火災保険株式会社 取締役専務執行役員 井口直紀氏に、累計1000社以上のタレントアクイジションを支援してきた株式会社TalentX CEOの鈴木貴史氏がインタビュー。これらの施策を選択した理由や実施の状況などを聞いた。

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※ 現状はプロフェッショナル社員のみを対象。今後は他の社員区分への拡大も検討中。

なぜ「ジョブ型」ではなく「スキル型」なのか

鈴木貴史氏(以下、鈴木) 現在、御社が大きな企業変革を進められている中で「スキル型人事制度」を導入された背景についてお伺いします。従来の日本企業で注目されがちな「ジョブ型」ではなく、なぜあえて「スキル型」を選択されたのでしょうか。

井口直紀氏(以下、井口) まず前提として、旧来の人事制度を抜本的に変える必要があると考えたことがあります。そのうえで、新しい制度のあり方を模索した結果として、スキル型人事制度に行き着いたという流れになります。

鈴木 なぜ、旧来の人事制度を抜本的に変える必要があるとお考えになったのでしょうか。

井口 私が人事部長を務めていた2021年当時、新たな中期経営計画を達成するためには、これまで以上に社員1人ひとりの力を最大限に引き出す経営への転換が必要だと考えていました。そこで、管理職への若手社員の抜擢やダイバーシティ推進に注力し、たとえば、当時の感覚としてかなり若い人財(42歳)の部長を登用するなどしていたのですが、それらはどうしても局所的な対応にとどまってしまっていたのです。特定の優秀な人財が散発的に選抜されるだけで、会社全体の人財の「総活躍」を実現するにはエネルギー不足を感じていました。

井口 直紀氏

井口 直紀(いぐち なおき)氏

三井住友海上火災保険株式会社 取締役専務執行役員

1967年生まれ。1990年に大正海上火災保険(現:三井住友海上火災保険)に入社。2021年4月に執行役員人事部長に就任。2023年4月より取締役常務執行役員として、コンプライアンス部・内部監査部・リスク管理部等を担当。2025年4月より、人事部・総務部・内部監査部・国際管理部を担当し、スキル型人事制度の構想・導入を主導。2026年4月より現職。

鈴木 個別の施策だけでは、組織全体の大きな地殻変動にはつながらなかったわけですね。

井口 そのとおりです。根本にある年功序列型の仕組みを変えない限り、いくら局所的な人事施策を講じても全社的な推進力にはなり得ないと考えました。

 かつては市場の拡大を目指す直線的な競争の時代であり、本社からのトップダウンで目標を追いかける手法も機能していました。しかし、現在のお客さまのニーズは非常に多様化しています。これからのビジネスモデルは、第一線でマーケットに向き合っている社員自らがお客さま、社会のために「何をすべきか」を考え、価値を提供する形に変革しなければなりません。そのためには、人財の力を引き出す人事制度の改革が最も効果的だと判断しました。

鈴木 なるほど。変革の手段として「スキル型」を選ばれた理由についてはいかがでしょうか。貴社では一部専門職でジョブ型も導入されていると伺っていますが。

鈴木 貴史氏

鈴木 貴史(すずき たかふみ)氏

株式会社TalentX 代表取締役社長CEO

1988年和歌山県生まれ。2012年インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社。企業の採用支援に従事した後、日本初のリファラル採用活性化プラットフォーム「MyRefer(MyTalent Refer)」を立ち上げ、「リファラル採用」の概念を日本に広める。その後、株式会社TalentXを設立し、代表取締役社長CEOに就任。現在は、タレントアクイジション(持続可能な優秀人財の獲得)を実現するAIネイティブな統合型タレントアクイジションプラットフォーム「MyTalent Platform」を展開。2025年、東証グロース市場へ上場。著書『戦わない採用 | リファラル採用のすべて』『タレントアクイジション経営』

井口 現在もアクチュアリーやデータサイエンティスト、M&A、資産運用、ITといった高度な専門性が求められる約20種類のポジションでは、ジョブ型雇用を併用しています。本人が望まない限り異動もなく、報酬水準も一般社員より魅力的な設定にしています。

 しかし、ジョブ型はこうした一部の職種だけにとどめ、全社的にはスキル型の人事制度を選択しました。ジョブ型という制度は、専門性を高めて能力発揮を縦に伸ばしていく点においては非常に優れており、従業員の納得感も高いと思います。ただ、当社のビジネスにおいては、多様な部署での経験を通じてお客さま、取引先企業や地域社会の課題解決に対し、「立体感のある価値」を提供できる人財のほうが多く必要です。そのため、ジョブ型にして多様な経験から得られる価値を捨ててしまうのは非常にもったいないのです。

鈴木 ジョブ型がもたらす専門性の深化と、組織として求められる総合力のバランスを考慮されたのですね。

井口 もう1つ、ジョブ型を採用すると、当社の場合「行き過ぎた個人主義」となってしまうのではないか、と懸念しました。自分の割り当てられた仕事さえ果たしていればよいという姿勢では、損害保険ビジネスは成り立ちません。チームワークを発揮し、組織として課題に立ち向かう文化を守り育てるためにも、ジョブ型ではなく、欧米の最新事例も参考にしながら、スキル型人事制度へ挑戦することを決定しました。

次のページ
将来の組織像から逆算して約800種類のスキルを定義

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この記事の著者

北浦 汐見(キタウラ シオミ)

都内のスタジオに勤務後独立。ポートレート、取材、料理撮影等、都内を中心に活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

1972年愛知県生まれ。宝飾品会社の社員、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事をテーマとする「...

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