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イベントレポート《海外》| HR World Summit 2026 #5

AI時代、HRはどう変わるのか 人が学び、組織が変わり続けるための条件を考える

佐藤 邦彦[著]

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 2026年5月26日~27日にポルトガル・ポルトで開催された「HR World Summit 2026」。私が参加し、そこで得た学びを5回にわたりお届けしています。本連載ではここまで、AI時代に企業の競争力を最後に分けるのは「Humanity(人間らしさ)」であること、人事戦略に必要な「翻訳」と「錨を上げる力」、さらに「Culture as a Strategy」という考え方、AIネイティブ組織とピープルアナリティクスの論点まで見てきました。最終回となる今回は、AI時代におけるL&D(人材開発)のあり方を問い直します。そして、5回にわたる連載を振り返りながら、人と組織の未来を見据えたHRの役割について、改めて考えていきたいと思います。

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AI時代にL&Dはなぜ再定義を迫られるのか

 AI時代のL&Dというと、まず「AIを使いこなすために、どんなスキルを身に付けるべきか」という議論になりがちです。しかし、HR World Summitで語られていたのは、それだけではありませんでした。むしろ問われていたのは、変化が続く中でも、人が学び、試し、新しい仕事の進め方へ適応していける組織をどうつくるかということでした。

 しかし、人が学び、変化し続けることは、決して簡単ではありません。

 ドイツのカールスルーエ大学で人事・組織論を専門とするアニャ・シュミッツ教授は、AIやテクノロジーの急速な進化に加え、地政学的な不安など、複数の危機が重なる「Poly Crisis(複合危機)」に触れ、人々が不安を抱え、集中力を失っている実状を指摘しました。

 こうした状況下で、社員に新たな学びや変化を求めるだけでは、かえって負荷を増やすことにもなりかねません。

 事実、国際的な世論調査・コンサルティングを行うGallup社が2026年4月に発表した最新調査では、世界の従業員エンゲージメントは、2022〜2023年の23%をピークに、2025年には20%まで低下しています。中でもマネージャー層の落ち込みは大きく、2024年の27%から2025年には22%へと、わずか1年で5ポイント低下しました。

 そんな状態の社員に、「AIを学ぼう」「もっと生産性を高めよう」と新たな要求だけを重ねても、なかなか前には進みません。つまり、これまでのように「必要な知識やスキルの獲得機会を提供する」という発想だけでは、頭では分かっていても心が動かないということです。だからこそ、AI時代のL&Dに重要なのは、何を学ばせるかだけではなく、学び続けられる状態をどうつくるか、にかかってくるのです。

ドイツ・カールスルーエ大学で人事・組織論を専門とするアニャ・シュミッツ教授
ドイツ・カールスルーエ大学で人事・組織論を専門とするアニャ・シュミッツ教授

人が学び続けるための「条件」をどうつくるのか

 実際に、そうした発想でL&Dの仕組みそのものを変えていた企業がありました。イギリスの公共放送局であるBBCの事例です。Chief People Officerであるウザイル・カディール氏の「Trust is the heartbeat of it all(信頼こそが、そのすべての中心だ)」という言葉が印象的でした。

 新しいことを試せば、当然失敗も起きます。分からないことも増えます。だからこそ、AIについて学ぶだけではなく、組織や周囲への信頼があり、「ここなら安心して試せる」と思える環境をつくることが、学びの前提になるのです。

 BBCは、この「信頼」を単なるメッセージで終わらせず、仕組みに落とし込んでいました。全社員へのAI基礎教育に加えて、3500人のチームリーダーに対し、価値観・思いやり・サポートを軸にしたリーダーシップ研修を1年かけて実施していました。さらにトップ300人には、組織のパーパスに立ち返りながら自らのリーダーシップのあり方を見つめ直す機会も設けました。学び続けられる組織を醸成することを目的とし、AIを学ぶ機会だけではなく、変化を率いるリーダー自身が、人を支え、安心して挑戦できる環境をつくれるようにする。BBCは、「信頼」を変化の土台として組織に実装しようとしていたのです。

 さらにBBCは、社員が実際に学び、挑戦するための「時間」と「機会」も用意しています。業務時間の20%を最大6ヵ月間リスキリングに充てられる制度に加え、短期集中でスキルを学び直す機会、より上位の役割を実際に経験しながら学ぶ仕組みも設けています。

 興味深いのは、研修コンテンツを増やすだけでなく、「学ぶための時間」と「新しい役割を試す機会」まで会社側がつくっていることです。カフェテリア形式と銘打って、空いた時間で学習してくださいというL&D機能はよく見ます。しかし「時間がないから」と、受講者が増えないという話はよくあるのではないでしょうか。BBCが戦略的にL&Dを推進すべきと判断していることが伝わるのは、「時間」を制度として生み出しているためです。この制度から伝わる姿勢そのものが、従業員の信頼感の醸成につながり、学習と挑戦という機会の実践に結び付くというわけです。

 BBCの事例から見えてくるのは、従業員の成長を本人の意欲だけに委ねるのではなく、学び続けられる条件を組織側がつくるという戦略的L&Dのあり方なのです。

イギリス・BBCのChief People Officer ウザイル・カディール氏
イギリス・BBCのChief People Officer ウザイル・カディール氏

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この記事の著者

佐藤 邦彦(サトウ クニヒコ)

HumanDriven株式会社 代表取締役 CEO

早稲田大学政治経済学部卒。2008年リクルートに新卒入社。HR領域で営業、企画、マネジメントを経験。2015年からはリクルートホールディングスにてシェアリングエコノミーの事業開発、働き方変革推進のプロジェクトリーダーを務める。2020年にココナラへ参画...

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