海外(高度)IT人材活用の必要性
もし、日本でこのような高度IT人材不足が続けば、将来の技術革新に致命的な遅れが出てしまうことが想定される。例えば、デジタルマーケティングの技術開発が遅々として進まなければ日本企業の収益に直接的なインパクトを受けることとなり、またブロックチェーンの技術発展ができなければ他国の先進技術を借りるために多額のライセンス料を支払う必要があるかもしれない。
そのような状況を打破するために、現在いくつかの日本企業は海外IT人材の活用に注目し始めている(2018年10月に報じられたメルカリにおける大量の海外IT人材採用はその最たる例である)。日本国内の供給量で足りないのであれば海外から人材を確保しようという動きだ。
一方で、海外IT人材の獲得を目指すことは、現地でのWar for Talent(優秀人材争奪戦)に参戦することを意味しており、名だたるグローバル有名企業との戦いを制しなければならないため、一筋縄ではいかないケースも多い。筆者がシンガポールに駐在していた際に訪れた採用フォーラムでも、グローバル有名企業が世界各国のタレントに対して自社をアピールしている中で、日系企業は言語や商習慣の壁に苦しんでいた印象である。
人材獲得競争でグローバル企業と伍していくための施策として、例えばIHIでは採用の際に日本語能力を不問とする採用を行っていたり、楽天では有名海外大学のキャリアセンターに直接売り込みを行ったりと、海外IT人材を獲得するために様々な工夫を重ねている。逆から言うと日系企業はこのような投資を惜しまないほど海外IT人材を必要としているし、その確保が喫緊の課題となっているのだ。
上記のような背景を踏まえ、今回は日本企業が海外IT人材を適切に活用していくための方策を提言するが、その前にまずは海外IT人材のプロファイル(志向性・特徴)を明らかにしておく。
〈海外IT人材のプロファイル〉
- 先進技術を有しており、さらなる技術向上のため、知識欲が非常に強い
- 上記技術や知識を活かす場面とキャリアを常に追い求めている
- そのため、働く会社や国にはとらわれない(ボーダレスで流動性が高い)
以降では、上記のようなプロファイルを持った海外IT人材を確保(採用・リテンション)するために「そもそも何をするべきなのか」「どのような点が肝となるのか」を採用・リテンションといった目的別に2つずつ紹介し、ケースを交えて解説していくこととする。なお、彼らを遇していくための手法(報酬やキャリアパスの設計、評価制度の透明性担保等)については個社個別の状況によって解が大幅に異なるし、一般的な示唆であれば他の調査や文献でも既に語られているため本稿では説明と解説を割愛する。