人余りの時代から会社余りの時代へ
直近の採用市場を見ると、企業は必要な人材を確保するのが極めて難しい状態にあることが分かります。コロナ禍でいったん落ち込んだ求人倍率は、新卒2024年卒で1.71倍[1]、中途採用で2.42倍[2]と、コロナ禍前の水準にまで戻り、厳しい売り手市場が続いています。
また、厚生労働省によると、2022年の出生数ははじめて80万人を切りました[3]。出生率は過去最低の1.26となり、日本の少子化が加速していることが数字から分かります。
そして、人口動態はある種確定した未来でもあり、ある年に生まれた人たちが20年後にそのまま労働人口となります。働き手の母数が減り続けるということは、企業側の求人数が減らない限り、売り手市場は加速していくと予想されます。
このように現代は、以前の人余りの時代から、会社余りの時代へ急速に変化しているのです。
となると、採用した人材の、会社として意図しない離職をいかに防ぐことができるかが、企業存続の死活問題となってくるでしょう。事業を担うのはあくまで人であり、新たに入ってきた人材が自社に適応・定着し、必要なスキルを身に付けてくれなければ、事業そのものが成り立たないからです。
注
[1]: リクルートワークス研究所「第40回 ワークス大卒求人倍率調査」
[2]: doda「転職求人倍率レポート(2023年10月)」
[3]: 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」
人が新しい組織に適応していくプロセスとは
ではそもそも、人はどのようなプロセスで新しい組織に適応していくのでしょうか。
これは、専門的には「組織社会化」と呼ばれます。人材が組織に適応できなければ、そこで働き続けることも難しいので、定着には組織社会化が必須といえるでしょう。
この組織社会化には3つの種類があります。
- ①文化的社会化
- 組織全体や職場、チームの規範を受け入れること。その会社の仕事の進め方やコミュニケーションの取り方など文化やルールに馴染むということです。多くの場合、働き始めてその会社の空気に漬かりながら次第になじんでいきます。
- ②技能的社会化
- 職務遂行のための技能を獲得すること。任された新しい仕事(ジョブ)に必要な知識や技能を身に付けることです。主に研修やOJTなどを通じて身に付けていきます。
- ③役割的社会化
- 自分の役割を理解して担えること。新たな自分の役割(ポスト)として期待されている行動などを理解し、実行できるようになっていくことです。
これら3つを獲得したとき、人はその組織に適応したといえます。社員の定着を目指す場合、新入社員に対し、3つの種類別に次のような取り組みを実施するのも効果的です。
- 文化的社会化を目指した施策例
- 入社前インターンシップ、ジョブローテーション、現場でのOJT など
- 技能的社会化を目指した施策例
- 職種特化型研修、参考図書配布、業務関連資格の取得支援、現場でのOJT など
- 役割的社会化を目指した施策例
- 階層別研修、新入社員研修、マネジメント研修 など