大塚 涼右(おおつか りょうゆう)氏
CoachHub株式会社 代表取締役 兼 営業担当バイスプレジデント
ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校卒。北米パソナ、パソナ上海にて、現地日系企業の人事・組織課題への支援に尽力。2018年SAPジャパン入社、人事人材ソリューション事業本部にて、金融・商社・小売など大手日本企業の人事DX支援。22年4月CoachHub入社、日本支社代表取締役、営業担当バイスプレジデントとして日本事業立上げをけん引。米国の人事資格、Professional in Human Resources (PHR) 保有。
管理職がエンゲージメントに及ぼす影響は約70%
大塚氏はまず、管理職の成長支援において「コーチング」が注目される背景を語った。
「昨今、管理職に対する企業からの期待や重圧は非常に大きくなっています。それに対し、自分のパフォーマンスに満足している管理職者はわずか17%。およそ70%の管理職者が現在の役割に対して高いストレスを感じています[1]。」(大塚氏)
注
[1]: 「Harvard Business Review (2020)」(Gartner)
一方で、ある調査によると、チームのエンゲージメントのうち約70%が管理職による影響であるという。また、優れたリーダーは従業員の能力やコミットメントを3倍以上に引き出し、さらにはマネジメントに長けた管理職によりチームの生産性が12%向上するという調査もある。
つまり、管理職が組織のエンゲージメントや部下の潜在能力、企業の生産性にもたらす影響は非常に大きいのにもかかわらず、管理職向けの支援は足りていないのが現状なのだ。
しかし、管理職の成長支援は、そう簡単に実現できるものではない。その理由の1つとして、大塚氏は管理職に求められるリーダーシップの変化を指摘した。
上図のとおり、従来のリーダーシップでは、実績や知識、決断力などが重視され、売り上げや目標達成に対する責任が求められてきた。しかし、最近では共感力や傾聴力、あるいはリーダー自身の成長意欲が重視されるようになり、さらには売上目標を超えたパーパスやミッション、ビジョンを組織内に浸透させる役割も求められている。
以前は「事業をリードすることで人がついてくる」というのが管理職のスタンスであったのに対し、現在は「人をリードすることで事業を推進する」となり、変化の激しいビジネス環境において求められるリーダーシップ像となったのだ。
「ところが、多くのリーダーたちは研修やトレーニングを受講しているにもかかわらず、77%の管理職が共感力やコラボレーションといったソフトスキルに苦手意識を持っています。一律型の研修だけではリーダーシップのスキル開発に限界を感じている方もいるのではないでしょうか。そのため、最近では管理職1人ひとりのニーズに合わせて個別最適化されたリーダーシップ開発が重視されており、その中でもコーチングを通じた成長支援が効果的なのです」(大塚氏)
必要なのは個別最適化された成長支援
では、コーチングによる対話と、他のアプローチとではどのような違いがあるのだろうか。その違いを示したものが次図である。
「コーチングと比較されることが多いメンタリングでは、メンターと呼ばれる経験者や先輩が、自らの経験や知恵を基にアドバイスをしたり、ともに考えたりといったアプローチを取ります。横軸からも分かるとおり、メンター(他者)がエキスパートの役割を担います。
一方で、コーチングはコーチによる質問が対話の中心を占めます。投げかけられた質問を通じて本人の考えや感情、マインドにアプローチをして、そこから問題を解きほぐします。ここではあくまでもコーチを受ける本人がエキスパートとなります。これにより、個人が自律的に考え、次のアクションへ行動していけるようにコーチは伴走しながら学びにつなげていくのです」(大塚氏)