充実した制度を実際に活用してもらうために
——貴社は「育児と仕事の両立支援サポートブック」を配布される前から、さまざまな子育て支援施策を行っています。どういったサポートがあるのでしょうか。
宮岸弘和氏(以下、宮岸) 制度としては、妊娠前から職場復帰後までの多様なサポートを設けています。中でも男性育休制度は「最短1ヵ月取得」を掲げているのが特徴です。また、2023年から「育休職場応援手当」を導入し、育休を取得する当事者だけでなくチーム全体へのサポートも行っています。
さらに、社員同士が育児と仕事の悩みをざっくばらんに話し合う交流の場「クローバーサロン」を開催しています。全国の社員がZoomで参加して、ロールモデルの先輩の話を聞いたり、育休取得時に工夫したことなどを共有したりしています。
——これだけの施策が充実している中、「育児と仕事の両立支援サポートブック」(以下、サポートブック)を作成することになった背景や課題とは?
長嶋千絵美氏(以下、長嶋) 実は10年ほど前にもマネージャー向けに、産休・育休のサポートブックを作成して配布しておりました。しかし、当時は女性が妊娠したら退職という選択肢も出てくる時代で、男性育休もあまり浸透していないころです。サポートブックの内容も、まずは「産休・育休を取得して、職場復帰する」というキャリアの選択肢を後押しするもの。上司が女性社員のキャリアをともに考える場を持ちましょうと促進するものでした。
現在は、時代の変化とともに社員の意識も変わり、産休・育休の取得は当たり前になりましたが、新しい課題も見えてきました。そこで今回の「育児と仕事の両立支援サポートブック」を、今の時代に合わせた切り口で制作することになったんです。
宮岸 また、制度は充実していたものの、それらの制度を使ってもらう職場環境づくりに課題がありました。産休・育休を取得する社員も「周りに迷惑をかけたくない」という心理的負担がありますし、お休み中の社員を支えるメンバーも業務の負担を感じやすい。こういった事態が、マネージャーの課題として顕在化しつつありました。
——なるほど。そうした課題に応える形で、今回のサポートブックはどのような内容にしたのでしょうか。
長嶋 当事者本人が制度を使いたいと思っても、周りに遠慮して使わなければもったいない。なので当事者の周囲の社員にも理解を深めてもらう必要があります。職場全体が運用方法を身に付けることで、制度を使いやすい環境が整っていくと考えました。
そこで、サポートブックでは当事者社員の体験談や、産休・育休にまつわる世の中の声を取り上げています。単なる制度の説明ではなく、実際の運用やコミュニケーションの仕方に焦点を当てることで、社員の“腹落ち感”を高める内容を目指したんです。
渡辺麻衣氏(以下、渡辺) 実際に現場のマネージャーから人事に、部下が産休・育休を取得した際の対応について相談が来ることがありました。「営業部門の部下が育休を取得する予定だが、どういう準備をしたらいいだろうか?」といった相談です。こうした悩みを抱えている現場に、実際に産休・育休取得社員をうまくサポートできている事例を届けることで、運用のヒントにしてほしいという狙いがありました。
——なるほど。当事者以外の社員にも働きかける目的で、あえて「マネージャー向け」とうたったわけですね。
渡辺 はい。職場運営の肝はマネージャーです。まずはマネージャーが正しく理解して、周囲の社員に働きかけることで環境が整っていきます。
当社では、産休・育休を取得したい部下に対して「NO」と言う上司はいないでしょう。しかし、産休・育休の申請を承認した後は、本人からの相談を待つ(受動的)になってしまうケースも少なくない。そうではなくて、もっと能動的に関わってほしいんです。部下から産休・育休の相談を受けたら「こういう制度があるよ」と紹介できるのが理想です。
長嶋 サポートブック自体はマネージャーだけでなく全社員が見られるように掲示しています。ただ、ターゲットがぼやけていると、育休・産休の当事者ではないからとスルーされてしまう可能性もあるので、あえてマネージャー向けと掲げています。
渡辺 また、1人の社員が長期間不在になることは、産休・育休以外のケースでもあり得ます。産休・育休の職場運営は、その他の事態にも応用できるので、会社の組織マネジメント力が高まるのです。
マネージャーには、産休・育休をきっかけにそういったチームへの良い影響があることも認識してほしいと思っています。