「本音に気づいていない」部下と「本音を聞きたい」上司
「人は眼の前にモノを見せられて初めて、『欲しい』という欲望が生じる」
これは、「羊たちの沈黙」ハンニバル・レクター博士の語りです。「欲望とは、自存しているのではなく、目の前にそれが現れたときに欲しくなる感情なのだ」という意味で、これは1on1の課題にも通じます。
実は、マネージャーが部下に話してほしい「本音(部下が本当に話したいこと=欲望に基づく内容や本音)」は、部下の中から自発的に生み出るものではなく、上司の問いや対話を通じて「あ、自分が話したかったことはこれだ!」と察知されることがほとんどなのです。
それにもかかわらず、多くのマネージャーは、部下の自発的な問題提起を頼りに1on1を行っているのです。
1on1を成功させるうえでは、人間は不器用であり、「自分の欲望・欲求」を言語化しにくい生き物だという一面を忘れてはいけません。
そして、もう1つ重要なのは、人間はとても都合が良い生き物だということです。これまで言語化しなかったくせに、目の前にそれが現れた途端、「これが欲しかった」と語りはじめる側面があります。
つまり部下は、自分では見つけられなかった「本音」をマネージャーが示してくれると、「これだよ、話したかったことは。前からそう思っていたんだよ」とまるで以前から考えていたかのように認識します。そこではじめて、部下の中で1on1の納得感と必要性が向上するのです。
良くも悪くも、「上司のある程度恣意的な誘導」なしに、組織内で再現性をもって1on1を有効活用することは難しいというのが私の結論です。
価値のある1on1を実現するために
この連載のテーマ「マネジメントがもっとラクになり、愉しくなる」の観点でいえば、この事実は良いことでもあります。
「ある程度の知識・技術と、情熱がある上司であれば、自分の考えていることを伝えるだけで、部下は同じ方向を向きやすくなる」ということだからです。
1on1を成功させるマネージャーは、メンバーが話したいことを「示す」ことができます。多くのマネージャーがこれを実現できれば、価値のある1on1を実現できるのではないでしょうか。
もし、自社のマネージャーが「部下の本音が分からない」と悩んでいた場合、組織的な対策が必要です。そして、人事のみなさんに気を付けていただきたいのは、その対策は、「部下の意見傾聴」を促すことではないということです。