“まず人を確保する”海外進出時の新しい雇用スキーム「EOR」と「PEO」——導入場面と5つの実務論点
海外進出といえば、現地法人を設立し、駐在員を送り、事業拡大に合わせて現地人材を直接雇用する進め方が一般的であった。ところが近年は、市場機会や人材獲得を優先し、「まず人を確保し、その後に組織や法人を整える」選択肢が広がっている。その担い手として注目されるのが、EORとPEOである。本稿では、両者の基本的な仕組みと違いを整理したうえで、特に日本企業にとっては比較的新しいコンセプトであろうEORを中心にその活用場面、実務上の留意点、そして組織・人材戦略として捉える際の視点を提示する。
海外進出の前提が変わっている——法人より先に人材を確保する
従来型の海外進出では、事業計画の策定、現地法人や駐在員事務所の設立、駐在員の派遣、現地人材の採用という順序を踏むことが多かった。この方法は、現地での責任主体や管理体制を明確にしやすい一方、設立手続き、銀行口座、給与計算、税務、社会保険、福利厚生などの基盤整備を伴う。進出の確度がまだ高くない段階や、まず少人数で市場性を検証したい段階などでは、時間と固定費が先行しやすい。
一方、事業機会の変化は速く、特定国にいる営業人材や専門人材を直ちに採用したい場面も増えている。M&Aやカーブアウトでは、買い手が対象従業員の所在国に法人を持たないまま、取引実行日(クロージング以降)から雇用と事業を継続しなければならないこともある。こうした状況では、「法人があるから人を雇う」のではなく、「必要な人材を確保するために、最適な雇用基盤を選ぶ」という発想への転換が求められる。
そこで注目されているのが「EOR」と「PEO」だ。それぞれ詳しく解説していく。
EORとPEOの基本的な仕組み
EORは「法的な雇用主」の役割
EORはEmployer of Recordの略称で、日本語では「記録上の雇用主」や「法的雇用主」と表現される。一般に、EOR事業者が現地の雇用契約の当事者となり、給与計算・支給、源泉徴収、社会保険、法定休暇、福利厚生、入退社手続きなどを担う。利用企業はEOR事業者とのサービス契約に基づき、従業員が遂行する業務、期待成果、役割などを定める。
この仕組みにより、利用企業は自社の現地法人がない国でも、現地法令に沿った形でローカル人材を活用しやすくなる。ただし、EORは人材紹介と同義ではない。候補者のリサーチや選考は別サービスであることも多く、採用支援を利用する場合には、サービス範囲、紹介契約、その他条件を別途確認する必要がある。
PEOは共同雇用を通じて人事機能を補完
PEOはProfessional Employer Organizationの略称で、利用企業とPEOが雇用上の役割を分担する共同雇用モデルとして説明されることが多い。給与計算、福利厚生、労務管理などをPEOが支援する一方、利用企業は雇用主としての責任や日々の人材マネジメントを引き続き担う。したがって、PEOは原則として現地法人などの雇用主体がすでに存在し、その人事管理機能を外部の専門組織で補完したい場合に適している。
用語や法的構成は国や事業者によって異なるため、名称だけで判断すべきではない。契約上の雇用主、給与支払者、指揮命令、人事上の意思決定、解雇や紛争対応の責任が、実際にどのように設計されているかを確認することが重要である。
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山田 俊輔(ヤマダ シュンスケ)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、ピープルコンサルティング、シニアマネージャー
日系プラントエンジニアリング会社の人事部勤務の後、米国ビジネススクールへの留学を経て2013年にEYに入社。人事制度やタレントマネジメント、HRオペレーション等、多様なプロジェクトに従事。近年はM&Aをはじめとする組...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

