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未来へ駆動する「戦略人事」のヒント:AI時代の人・組織・制度を考える | 海外進出で法人より先に人材を確保する「EOR」「PEO」

“まず人を確保する”海外進出時の新しい雇用スキーム「EOR」と「PEO」——導入場面と5つの実務論点

山田 俊輔[著]

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EORが効果を発揮する3つの場面

①海外市場でのスモールスタート(テスト参入)
新市場で営業担当者やカントリーマネジャーを少人数採用し、顧客開拓や市場検証を始めるような場面が想定される。事業性が見通せない段階から法人設立を先行させるのではなく、EORを用いて立ち上がりを早め、一定の売上、人員規模、投資計画が見えた時点で法人設立を判断することができる。
②国境を越えた専門人材の獲得
デジタル、研究開発、規制対応など専門性の高い領域では特に、事業拠点の所在地と必要人材の所在地が一致するとは限らない。採用対象国に法人がないことを理由に候補者を逃すのではなく、人材起点で雇用方法を検討できる点は大きな利点である。もっとも、対象職務がその国に所在する事業上の理由や、就労資格、データアクセス、知的財産の取り扱いなどは個別に検討する必要がある。
③M&Aにおける雇用の受け皿
カーブアウト(事業の切り出し)を伴うM&Aなどでは、買い手が売り手の海外法人を取得しない一方、買い手も拠点を有しないまま複数国の営業・顧客対応人材を引き継ぎたいというケースがある。そのような場合、雇用の移管方法が重要な論点となり、特に自社(グループ)の福利厚生制度、退職給付制度や長期インセンティブ制度などが使えなくなることによる処遇の連続性などについて検討が求められる。買い手側に雇用主体が存在せず、新法人の設立や人事オペレーションの構築もDay1に間に合わない場合、EORを暫定的な雇用の受け皿とすることで、従業員の雇用継続と事業継続を支えることができる。この場合、EORは単なる採用手段ではなく、クロージングから法人設立・新会社での雇用開始までをつなぐトランジション施策となる。当然のことながら、それを有効に機能させるためには人事・労務・税務・法務を横断した設計が欠かせない。

EORを使えば「何でもできる」わけではない

法的雇用主と実際のマネジメントのずれ

 EORの実務で最も注意すべきなのは、契約上の役割分担と日々の運用を一致させることである。EOR事業者が法的雇用主であるにもかかわらず、利用企業が採用、勤務時間、休暇、懲戒、解雇を含むすべての判断を直接行えば、契約上の説明と実態の間にずれが生じる。特に、細かな作業方法や勤務態様まで利用企業が直接指示する運用は、国によっては(たとえば日本でいうところの「偽装請負」のような)労務管理上のリスクにつながる可能性がある。

 したがって、利用企業は業務の目的、成果、優先順位、目標を示しつつ、雇用上の措置はEOR事業者を通じて行うなど、コミュニケーションと権限の設計を明確にする必要がある。カントリーマネジャーとその配下のチームをEORで雇用する場合も、チーム内の役割分担、評価プロセス、最終的な雇用判断の所在をあらかじめ整理しておくべきである。

EORはリスクを消す仕組みではない

 また、EORを利用しても、進出先で行う事業活動そのものに関する規制、税務上の恒久的施設(いわゆるPE:Permanent Establishment)、個人情報移転、各種業法、就労資格などの問題が当然に解消されるわけではない。たとえば、現地人材が継続的に営業活動を行い、契約締結に関与する場合には、雇用契約の名義とは別に、現地での事業実態を踏まえた税務検討が必要となる。各国の国内法や租税条約によって判断が異なるため、税務・法務の専門家と連携した評価が欠かせない。また、クロスボーダーM&Aや海外展開では、PE認定リスクのみならず、給与課税、源泉税、ストックオプションや株式報酬の課税関係なども論点となり得る。EORは雇用インフラを提供するものであり、税務リスク自体を移転するものではない点に留意が必要である。

次のページ
導入前に確認すべき5つの実務論点

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この記事の著者

山田 俊輔(ヤマダ シュンスケ)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、ピープルコンサルティング、シニアマネージャー
日系プラントエンジニアリング会社の人事部勤務の後、米国ビジネススクールへの留学を経て2013年にEYに入社。人事制度やタレントマネジメント、HRオペレーション等、多様なプロジェクトに従事。近年はM&Aをはじめとする組...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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