「何を言えばよいか分からない」「言っても何も変わらない」「言ったら自分が損をする」——社員が口を閉ざすとき、その奥ではこの3つの心理が働いています。第1回では、社員の声の96%が経営に届かない「沈黙の組織」と、そこに現れる6つの症状について解説しました。今回は、症状の奥にある心理的な「3つの壁」について解説します。そして、3つの壁を読み解いたうえで、それを乗り越えるための「フィードバック経営」3つの柱の全体像を紹介します。人事として自社のどこに手を打てばよいのか、第一歩を踏み出すための地図として読んでいただければ幸いです。
「言わない」の中には、3つの違う心理がある
「うちの社員にもっと声を上げてほしい」経営層からこう言われ、心理的安全性を高める施策を任され、正解が分からないまま打ち手を実行する。人事の現場でよくある場面ではないでしょうか。
私は、社員が口を閉ざす心理は大きく3つに分類できると考えており、これを「3つの沈黙の壁」と呼んでいます。6つの症状が組織の表面に現れたサインだとすれば、3つの壁はその奥にある、社員が声を上げることをやめてしまう心理です。自社のどの壁が高いかを見極めることが、打つべき施策を選ぶ出発点になります。
1つ目は、迷いの壁です。「何を言えばよいか分からない」状態を指します。会社がどこへ向かおうとしているのか、自分の仕事が何につながっているのかが見えていない。だから、声を上げようにも何を言えばよいのか自分でもつかめない。意欲がないのではなく、問いの足場がないのです。「会社をもっと良くするために意見を出してほしい」と言われても、何が「良い」とされるのかが共有されていなければ、社員は黙るしかありません。
2つ目は、諦めの壁です。「どうせ言っても何も変わらない」状態です。過去に意見を出したが聞き流された。サーベイに本音を書いたのに、その後何のフィードバックもなかった。この経験が積み重なると、人は声を上げること自体をやめます。やめるというより、期待することをやめるのです。一度失われた期待は、初めての無関心よりも取り戻しにくい。だからこそ、3つの壁の中でも諦めの壁は根が深いのです。
3つ目は、恐れの壁です。「言ったら自分が不利益を被るかもしれない」という状態を指します。耳の痛い指摘をすれば評価が下がるかもしれない。上司に異を唱えれば関係が気まずくなるかもしれない。人は、自分の身を守るために黙ります。これは臆病なのではなく、声を上げるリスクが上げないリスクを上回るかぎり口を閉ざし続けるという、合理的な判断です。
3つの壁は、別々に存在するわけではありません。迷いが諦めを呼び、諦めが恐れを強める。重なり合って、組織の沈黙を分厚くしていきます。だからこそ、1つの施策だけでは突き崩せません。
「うちはすでに心理的安全性を高める施策に取り組んでいる」という企業でも、これらの壁は取り払われず、沈黙が解消しきれていないことが多々あります。研修を実施し、1on1を導入し、「何でも言っていい」と伝えている。それでも会議では誰も口を開かない。
なぜそうなるのか。理由を掘り下げてみましょう。
この記事は参考になりましたか?
- フィードバック経営 「沈黙の組織」から「高め合う組織」へ連載記事一覧
-
- 1on1が空回りする理由——「投げ手」だけでは醸成されない、フィードバック文化のつくり方
- 社員が口を閉ざす本当の理由──「沈黙」を生む3つの壁と、それを越える3本の柱
- 社員の声の96%が経営に届かない——あなたの会社にも潜む「沈黙」の正体
- この記事の著者
-
三村 真宗(ミムラ マサムネ)
株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO
慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

