1on1やサーベイをはじめとしたエンゲージメント施策を動かしても、社員の声が聞こえず、組織に変化は起きない。そんな手詰まりの奥には、たいてい1つの問いが放置されています。「何のために声を上げるのか」。この答えが組織内に明示されていないのです。本連載の第1回から第4回(前回)まで、沈黙の組織の構造とそれを越えるための「フィードバック経営」の概要、フィードバック経営を支える「3本柱」のうちの「フィードバック文化の醸成」「VoE(Voice of Employee)サイクルの確立」について解説してきました。最終回で取り上げるのは、残りの1つの柱「経営理念の実装」です。何のために声を上げるのか。この問いに全社で答えがそろっていなければ、どれだけ対話の仕組みを整えても、組織は同じ場所を回り続けます。連載の締めくくりとして、経営理念を「絵に描いた餅」で終わらせない実装の手順と、組織変革に向けてどのような1歩目を明日から踏み出せばよいのかをお伝えします。
理念を掲げただけでは、現場に届かない
経営理念のない会社は、ほとんどないでしょう。問題はあるかないかではなく、経営理念が組織の中で生きているかどうかです。実際、私たちが国内企業の正社員2060名を対象に実施した独自調査では、「自社の経営理念は、実態を伴わない〈スローガン〉になっていると感じる」という問いに、52%の社員が同意しています。また、経営方針と現場にズレを感じると回答した社員は62%にのぼりました。理念を掲げてはいても、現場には浸透せず形骸化している。それが多くの組織の実態です。
私は、経営理念の形骸化は3つの段階で進んでいくと考えています。
第1段階は「知らない」。壁に貼ってあっても、社員が中身を覚えていない。
第2段階は「つなげられない」。言葉は知っているが、自分の仕事とどうつながるのかが分からない。
第3段階は「実行されていない」。意識はしているが、日々の判断には使われていない。
段階が進むほど、理念は現場の判断から遠ざかっていきます。
理念が現場に届かないとき、社員の側では何が起きているのか。判断に迷ったとき、立ち返る基準がない。だから「正しいかどうか」ではなく「怒られないかどうか」で動くようになる。
ここで、本連載第2回を思い出してください。社員が口を閉ざす3つの壁のうち、最初に挙げたのが「迷いの壁」でした。「何を言えばよいのか分からない」という迷いです。
迷いの壁を崩すのが「経営理念の実装」です。何を大切にしている会社なのかが共有されていれば、社員は「これは言ってよいことだ」と判断できます。逆に、その基準がなければ、「会社をよくするために意見を出してほしい」と促しても、何が「よい」とされるのかが分からないまま、社員は黙るしかありません。
経営理念が、決断の拠りどころになった瞬間
私が経営に携わっていたコンカー日本法人には、5つのバリューがありました。
- Happy-Happy(お客様を笑顔にしよう。それが私たちの幸せ)
- Enjoy the Challenge(変化を創り出そう。挑戦を楽しもう。そして未来を創り出そう)
- 期待を裏切ろう(質とスピードで期待を上回ろう。想像をはるかに超えて)
- 自分ごと(ひとごとはない。目指す先は一緒だから、すべてが自分ごと)
- Drive Everything(高い視座を持ち、自ら率先して物事を動かそう)
言葉を掲げるだけなら、どの会社でもできます。バリューが力を持つのは、社員が判断に迷ったとき、その言葉に照らして決められるようになったときです。
あるとき、1人の社員に難しい仕事を打診しました。本人は一度、「自分には無理です」と断りました。ところが後日、その社員のほうからミーティングを申し入れてきたのです。理由を聞くと、こう切り出しました。「Enjoy the Challengeに照らして考えたら、これは挑戦すべき仕事でした。やらせてください」。最初に断ったときとは別人のような、生き生きとした表情でした。
上司に言われたからでも、評価を気にしたからでもありません。自分の中にある判断基準に照らし合わせて、自分で決めた。バリューが決断の拠りどころになると、こういうことが起こります。経営理念は、掲げるものではなく、日々の判断で使われて初めて生きるのです。
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- この記事の著者
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三村 真宗(ミムラ マサムネ)
株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO
慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...
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