①経営・事業戦略と人材戦略の連動:「ケイパビリティ」という共通言語をつくる
ではここから、具体的に各プロセスについて紹介していきます。
まず起点となるのが、経営・事業戦略と人材戦略を結び付けるプロセスです。ここで鍵となるのが「ケイパビリティ」という共通言語です。
企業に求められるケイパビリティは一様ではありません。たとえば、EV化やSDV化といった非連続な変化に直面する自動車メーカーであれば、既存の延長線上にない提供価値を確立するための技術的競争優位、具体的には電動化技術やソフトウェアの内製開発力などが、重要なケイパビリティとなり得ます。一方、多様な事業アセットを抱える金融機関や商社であれば、事業間の掛け合わせで新たな価値を生み出す構想力や、組織の壁を越えたシナジー創出力が中心的なケイパビリティになる、というように、置かれている事業の状況によって獲得すべき能力は大きく異なります。
自社が「どこで戦い、どう勝つか」を明確にしたうえで、必要なケイパビリティの候補を洗い出し、経営・事業戦略上の重要度と競争優位への貢献度という2つの軸で優先順位を付けていく。この優先順位付けこそが、限られた経営資源を有効に配分するための出発点です。
併せて押さえておきたいのが、ケイパビリティは「個人の状態」と「組織の土壌」の掛け合わせから生まれる「チームの状態」、そしてその相互作用の先に形成される、という積み上げの構造を持つ点です。専門スキルが高い人材がそろっていても、意欲や組織の支援が伴わなければ挑戦行動は生まれず、挑戦行動が生まれても、それを成果に結び付けるスキルや、失敗を許容する風土が伴わなければ、持続的な組織能力には育ちません。
ケイパビリティを「スキルの言い換え」として扱うのではなく、こうした重層的な現象として捉えることが、経営と人事が同じ土俵で議論するための前提になります。
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②タレントポートフォリオマネジメント:人材を「質」で可視化する
必要なケイパビリティが明確になったら、次はそれを自社の人材でどれだけ充足できているかを可視化するプロセスに移ります。
ここで陥りがちなのが、「人数が足りているか」という量の把握だけで満足してしまうことです。しかし、本連載第1回で紹介した調査結果が示すように、多くの企業では人材の量だけではなく、質のミスマッチ(職務要件に対して能力が不足している、あるいは十分に活かしきれていない状態)が深刻な課題となっています。
したがって、タレントポートフォリオの構築では、質を捉えるための次のステップを丁寧に踏む必要があります。
- 職務を定義する
- 担当者を整理する
- 必要なスキルとその習熟度を定義する
- 実際の発揮状況を評価する
- 職務遂行レベルを判定する
この工程には相応の工数がかかりますが、近年は目標評価シートや職務経歴書などのテキストデータをもとに、個人の保有スキルやレベルをAIが推論する取り組みも広がっており、実務負荷を抑えながら質の可視化を進める後押しとなっています。さらに、蓄積された人材ポートフォリオのデータをAIでシミュレーション分析し、生産性や持続性の課題を検出したり、As-IsとTo-Beのギャップを踏まえた要員計画の立案そのものにAIを活用したりする取り組みも広がりつつあります。
こうして現状(As-Is)のポートフォリオが見えると、将来必要となるケイパビリティを踏まえたあるべき姿(To-Be)とのギャップが明確になり、育成・配置・採用のどこに手を打つべきかが具体的に見えてきます。加えて、部門を横断してポートフォリオを俯瞰することで、「不足しているのは本当に人数なのか、それとも職務遂行能力が十分でない人材の比率が高いことによるものなのか」を見極めることもできます。人材不足の実態が量ではなく質にあるケースは決して少なくなく、この見極めを誤ると、増員だけが繰り返される結果になりかねません。
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久保田 勇輝(クボタ ユウキ)
アビームコンサルティング株式会社 Executive Officer Principal People & Culture Strategy Unit Lead
外資系コンサルティングファーム、ソフトウェアベンダーを経て、2022年にアビームコンサルティングに参画。20年にわたり人事戦略・タレントマネジ...
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