③タレントマーケットづくり:社内の流動性でギャップを埋める
タレントポートフォリオでギャップが把握できても、実際に人材が動かなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。そこで必要になるのが、社内における人材の流動性を高める仕組み、すなわち「タレントマーケット(社内労働市場)」です。社内公募や社内副業、ジョブマッチング制度などを通じて、従業員自身が自らのスキルのミスマッチに気づき、新たな役割に挑戦できる環境を整えることが目的です。
ここで重要なのは、配置時点でスキルが完全に一致していることを求めすぎないことです。専門スキルやソフトスキルといった能力面に加え、価値観やキャリア志向、働き方の条件、エンゲージメントの状態など、複数の要素を総合的に捉えたうえで、着任後の育成やマネジメントで補える部分は柔軟に許容する。こうした動的なマッチング設計に転換することで、初めて挑戦の機会が生まれます。
従来の配置は、職務に求められる能力(Must)と現在の能力(Can)が一致しているかどうかを基準にする、いわば静的な整合を前提としてきました。しかし変化の速い事業環境では、この整合だけでは不十分です。挑戦意欲や成長可能性を踏まえて一定のギャップを許容し、能力がポジション要件を上回る人材についてはより発揮できる場へ再配置する、という時間軸を内包したマッチング設計への転換が求められます。
なお、こうしたマッチングを支える手段として、社員の保有スキルや経験、さらにはキャリア志向といった定性情報までをAIでスコア化・タグ付けし、社内の公募ポジションとのマッチング度を自動算出する仕組みを導入する企業も増えています。人の目では気づきにくい「隠れた適性」を可視化できる点が、こうした仕組みの利点です。併せて、社内の異動を仲介する「Peopleマネージャー」のような役割を置き、上司の引き留めや評価バイアスを排除して公正にマッチングを行う仕掛けを整えることも、この仕組みを機能させるうえで欠かせません。
こうしたPeopleマネージャーの設置は、単に公正なマッチングを担保するだけでなく、日々の業務対応に追われがちな現場マネージャーから異動判断の負荷を切り離す機能も持ちます。前回触れた「マネージャーが中長期的な人材育成に時間を割けない」という課題に対し、この役割が経営と現場の間に立つことで、現場の負荷を増やさずに戦略的な人材流動性を確保できる点が、ケイパビリティ型ならではの解決策だといえます。
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④社外労働市場との接続:社内で完結しない部分を外部とつなぐ
社内のタレントマーケットだけで、必要なケイパビリティのすべてを充足できるとは限りません。社内で獲得が難しい能力については、中途採用や業務委託、提携・アウトソーシングといった形で、社外の人材市場と積極的につながっていく必要があります。
その際に重要になるのが、自社が求める人材に対して魅力的な雇用価値提案(EVP:Employee Value Proposition)を明確に描き、発信することです。どのようなビジョンの下で、どのような成長機会や報酬が得られるのかを社内外に示すことができれば、外部の優秀な人材を惹きつける力になります。実際に、デジタル人材の確保に向けて採用サイトや専門人材コミュニティを刷新し、大胆なブランディングに乗り出す企業も見られます。社内のタレントマーケットと社外への魅力訴求を連動させることが、内部育成と外部登用を組み合わせた最適な人材ポートフォリオの実現につながります。
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久保田 勇輝(クボタ ユウキ)
アビームコンサルティング株式会社 Executive Officer Principal People & Culture Strategy Unit Lead
外資系コンサルティングファーム、ソフトウェアベンダーを経て、2022年にアビームコンサルティングに参画。20年にわたり人事戦略・タレントマネジ...
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