⑤投資とモニタリング:人材投資の「リターン」を検証する
最後のプロセスは、これまでの取り組みの効果を継続的に検証する仕組みです。人的資本経営においては、人件費や育成費用を単なるコストではなく、将来への「投資」として捉え直すことが前提になります。
投資である以上、リターンの検証が欠かせません。リターンは大きく2つの階層で捉えることができます。1つは、生産性向上や付加価値向上といった比較的短期で顕在化する財務的なリターンで、1人当たり利益(売上高/人、粗利/人、営業利益/人など)のような指標で表されます。実際に、こうした1人当たり利益や投資効率を経営指標として継続的にモニタリングする企業や、社員が将来生み出す利益の期待値を経営管理に組み込む企業も出てきています。
ただし、これらはあくまで単年のP/Lから算出される結果指標であり、過去の実績を説明することはできても、将来に向けてどうリターンを最大化するかを示すには限界があります。
そこでもう一段深く捉えたいのが、2つめの、事業の成長性や競争優位の持続性を通じて中長期的に企業価値へ反映されるリターンです。企業価値は、資本コストを上回る収益性、将来キャッシュフローの成長性、そしてその超過収益がどれだけ持続するかという3つの要素で規定されると考えられます。人的資本投資は、生産性向上を通じて収益性に貢献し、新規事業やイノベーション創出を通じて成長性に貢献、そして独自の優位性を生み続ける組織・人材基盤の強化を通じて持続性に貢献します。
つまり、個人のスキルや動機(インプット)が、挑戦行動や知識共有といった組織内の相互作用(プロセス)を経て組織能力(ケイパビリティ)として結実する。そして、そのケイパビリティが事業成果・財務成果を通じて企業価値のどの要素につながるのか。この一連の因果の連なりを描くことが、投資を「説明できるもの」にするカギになります。
実務上は、「強化したい事業領域で必要なケイパビリティがどれだけ充足されたか」「社内マッチング施策でミスマッチ率がどれだけ改善したか」といった、ケイパビリティの充足度に関するKPIを設定し、それが1人当たり利益などの財務指標や事業成果の変化とどう連動しているかを合わせて追跡することがポイントです。
単一の指標を眺めるのではなく、インプットからケイパビリティ、事業成果、財務成果へと至る一連の流れをPDCAサイクルで継続的に検証していく。こうしたモニタリングを続けることで、人材投資の適否を素早く施策に反映でき、人的資本経営の実効性を高めることができます。
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ここまで、ケイパビリティ型人材マネジメントを支える5つのプロセスを解説してきました。理想をいえば、この5つを一気通貫で整備することが望ましいです。しかし、すべてを同時に、かつ完璧な形で立ち上げようとする必要はありません。
大切なのは、自社がいまどのプロセスに最も課題を感じているかを見極め、そこから着手することです。こうした進め方こそが、ケイパビリティ型人材マネジメントを自社に根づかせる近道だといえるでしょう。
次回は、実際にケイパビリティ型の考え方を取り入れて変革を進めている企業の事例を取り上げ、現場でどのようなプロセスで導入が進められ、どのような難所を乗り越えてきたのかを具体的に紹介します。
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久保田 勇輝(クボタ ユウキ)
アビームコンサルティング株式会社 Executive Officer Principal People & Culture Strategy Unit Lead
外資系コンサルティングファーム、ソフトウェアベンダーを経て、2022年にアビームコンサルティングに参画。20年にわたり人事戦略・タレントマネジ...
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