「言わない」の中には、3つの違う心理がある
「うちの社員にもっと声を上げてほしい」経営層からこう言われ、心理的安全性を高める施策を任され、正解が分からないまま打ち手を実行する。人事の現場でよくある場面ではないでしょうか。
私は、社員が口を閉ざす心理は大きく3つに分類できると考えており、これを「3つの沈黙の壁」と呼んでいます。6つの症状が組織の表面に現れたサインだとすれば、3つの壁はその奥にある、社員が声を上げることをやめてしまう心理です。自社のどの壁が高いかを見極めることが、打つべき施策を選ぶ出発点になります。
1つ目は、迷いの壁です。「何を言えばよいか分からない」状態を指します。会社がどこへ向かおうとしているのか、自分の仕事が何につながっているのかが見えていない。だから、声を上げようにも何を言えばよいのか自分でもつかめない。意欲がないのではなく、問いの足場がないのです。「会社をもっと良くするために意見を出してほしい」と言われても、何が「良い」とされるのかが共有されていなければ、社員は黙るしかありません。
2つ目は、諦めの壁です。「どうせ言っても何も変わらない」状態です。過去に意見を出したが聞き流された。サーベイに本音を書いたのに、その後何のフィードバックもなかった。この経験が積み重なると、人は声を上げること自体をやめます。やめるというより、期待することをやめるのです。一度失われた期待は、初めての無関心よりも取り戻しにくい。だからこそ、3つの壁の中でも諦めの壁は根が深いのです。
3つ目は、恐れの壁です。「言ったら自分が不利益を被るかもしれない」という状態を指します。耳の痛い指摘をすれば評価が下がるかもしれない。上司に異を唱えれば関係が気まずくなるかもしれない。人は、自分の身を守るために黙ります。これは臆病なのではなく、声を上げるリスクが上げないリスクを上回るかぎり口を閉ざし続けるという、合理的な判断です。
3つの壁は、別々に存在するわけではありません。迷いが諦めを呼び、諦めが恐れを強める。重なり合って、組織の沈黙を分厚くしていきます。だからこそ、1つの施策だけでは突き崩せません。
「うちはすでに心理的安全性を高める施策に取り組んでいる」という企業でも、これらの壁は取り払われず、沈黙が解消しきれていないことが多々あります。研修を実施し、1on1を導入し、「何でも言っていい」と伝えている。それでも会議では誰も口を開かない。
なぜそうなるのか。理由を掘り下げてみましょう。

