近年、職場におけるハラスメントへの関心は急速に高まっています。その一方で、「どこまでがハラスメントなのか分からない」「指導をしたいが踏み込めない」といった声を人事労務担当者から伺う機会も増えています。実際、適切な業務指導であってもハラスメントと受け取られるケースや、明らかに問題のある言動が「指導の一環」として見過ごされてしまうケースも存在します。こうした判断に迷う領域は、現場だけでなく人事にとっても対応が難しいテーマです。本記事では、ハラスメントかどうか判断に迷ったときに、人事労務担当者としてどのような視点で整理すべきか、その考え方と実務対応について解説します。
「ハラスメントかどうか分からない」が起きる理由
ハラスメントの判断が難しい最大の理由は、「主観」と「客観」が一致しない点にあります。
ハラスメントは一般的に「不快に感じたら成立する」と誤解されがちですが、実際にはそうではありません。これらは法令および指針に基づき定義されており、パワーハラスメント(以下、パワハラ)は「優越的な関係」「業務上必要性の逸脱」「就業環境への影響」という3つの要素をすべて満たす必要があります。
また、セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)も、「労働者の意に反する性的な言動」によって就業環境が害されることが要件とされています。
いずれも重要となるのは、「就業環境が害されているか」という点です。この判断は、平均的な労働者の感じ方、すなわち社会一般の労働者が看過できない程度の支障が生じているかという客観的基準が用いられます。
つまり、当事者が不快に感じたとしても、それだけで直ちにハラスメントと評価されるわけではありません。一方で、行為者に悪意がなくても、客観的に見て不適切であればハラスメントと判断される可能性があります。
もっとも、セクハラにおいては「労働者の意に反する」という要素がある以上、被害者の主観も重要な判断材料となります。特に性的な言動は、受け手の価値観や経験によって受け止め方が大きく異なります。
たとえば、性的な話題に敏感な社員がいるケースを考えてみましょう。その社員は過去に「性的な話題が苦手であるから振らないでほしい」と周囲に共有しており、職場でも認識されている状況でした。
しかし、上司が飲み会や日常の雑談で恋愛や性的な話題を繰り返し、本人が拒否しても「社会人なら慣れるべきだ」と話題を続けた場合、本人の拒否意思と関係性を踏まえれば、セクハラに該当する可能性は高いといえます。
このように、パワハラでは客観基準、セクハラでは主観も一定程度重視されるという違いはあるものの、いずれも言動の内容、関係性、経緯、継続性を踏まえた総合判断が必要です。これが判断を難しくしている本質といえるでしょう。
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村井 真子(ムライ マサコ)
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014 年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先 160 社超。移...
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