2026年5月26日〜27日にポルトガル・ポルトで開催された「HR World Summit 2026」。私が参加し、そこで得た学びを5回にわたりお届けしています。第1回は、AI時代の企業の競争力を最後に分けるのは、テクノロジーそのものではなく、人の感情や意志を組織の力に変える「Humanity(人間らしさ)」であること。続く第2回は、経営の意図を現場の行動へとつなぐ「翻訳」や、人事戦略のあり方について、第3回は、「Culture as a Strategy」という視点から、組織文化を競争優位の源泉として捉え直す重要性についてお伝えしました。では、人事が次に目指すべき組織の姿とは何でしょうか。今回は、組織変革の中でも、AIネイティブな組織へのトランジションと、それを支えるデータ活用の具体的方法論について考えていきます。
AIの価値はテクノロジーだけでは生まれない
カンファレンスで繰り返し語られていたのは、AIへの投資や導入は、事業価値を生み出すためのスタートラインにすぎないということでした。
世界最大級のBPO企業TeleperformanceのSenior Vice President ミシェル・ワインストック氏は、この現実を具体的な数字で示しました。CEOの94%がAIへの投資を維持、あるいは拡大する意向を持つ一方で、PoC(コンセプトの実証)を越え、実際の事業価値につなげられている企業は26%にとどまります。経営はAIに資金を投じているにもかかわらず、それが現場の成果へ十分に変換されていないのです。
さらに示唆的だったのは、AIによって生まれる価値の70%は、人そのものや、組織変革のプロセスから生まれ、テクノロジーそのものが占める割合は30%にすぎないという指摘です。この数字が示しているのは、AI導入の成否を分けるのは、どのAIを導入するかではなく、AIを前提に人の仕事や組織のあり方をどう再設計するかだということです。
しかし、多くの企業では、AX(AI Transformation)は経営や情報システム部門を中心に進められ、人事は導入が決まった後に、教育や推進を担う役割として関わるケースが少なくありません。
同氏は、人事がAI戦略の初期段階から関与している組織ほど、AI導入はスムーズに進み、PoCを超えて事業価値を生み出しやすいと語ります。言い換えれば、人事は自社のAXにおいて、組織設計という切り口から仕事や組織のあり方を再設計するというリーダーシップを求められる、ということです。
人とAIの「役割の境界線」をどう設計するか
では、そのとき最初に設計すべきものは何でしょうか。それが、人とAI、それぞれが担う役割の設計です。AIを組織へ組み込む際に必要なのは「AIで何ができるか」だけを考えることではありません。同時に、何を人間に残すのかを決める必要があります。AIに効率化を任せて、人は人にしかできない価値を。カンファレンスでは、このようなスローガン的な議論を超え、具体的な要諦について触れられていました。
ワインストック氏は、経営インパクトを重視するのなら、人とAIの境界線は職種単位で分けないことが重要だと指摘します。「この仕事はAI」「この仕事は人間」と分けるのではなく、1つの仕事を構成するプロセスや判断を分解し、経営指標に大きな影響を及ぼす組織課題は何かを特定したうえで、AIに任せる部分と人が担う部分を設計するのです。
たとえば、営業と開発とCS(カスタマーサポート)の仕事があるとします。CSの仕事において、情報の収集や整理、定型的な対応はAIに任せられるかもしれません。これも従来、人間が担ってきた役割をAIが代替・進化させることで効率化が実現できるという意味では立派なAXです。
一方で、3つの部門を横断して捉え、営業とCSが得られるユーザーの貴重な声をAIが集約し、開発部門に即座に共有される仕組みを自動化すれば、プロダクト改善のスピードは圧倒的に高まります。その際、その情報が得られている文脈を読み、利害関係を調整し、何を大切にするのかを決め、最終的な責任を引き受けるのが、人間の役割です。
経営的視点で見ると、前者の価値は「効率化」であり、コスト改善になりますが、後者の価値は「価値創出」であり、事業推進力の向上です。各部門、各仕事においてAIを導入し始めると効率化に終始してしまいがちですが、事業全体を俯瞰した業務プロセスを紐解きながら組織課題に着目し、人とAIの役割分担を念頭に置いた組織設計を考えることが大切なのです。
また、AIが情報処理のボトルネックを解消するほど、組織に最後まで残るのは、曖昧な状況で判断する力です。説得、交渉、葛藤の調整、共感、意味付け、そして責任の引き受け。AI時代に「Humanity」が求められるのは、「人間が担うべき役割」を見極めるための組織設計が必要とされるからです。ここに、人事のリーダーシップが試されるゆえんがあります。
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- この記事の著者
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佐藤 邦彦(サトウ クニヒコ)
HumanDriven株式会社 代表取締役 CEO
早稲田大学政治経済学部卒。2008年リクルートに新卒入社。HR領域で営業、企画、マネジメントを経験。2015年からはリクルートホールディングスにてシェアリングエコノミーの事業開発、働き方変革推進のプロジェクトリーダーを務める。2020年にココナラへ参画...
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