AIネイティブな組織化への盲点
人とAIの役割を設計しただけでは、組織は変わりません。その役割分担が現場で実践され、日々の仕事の中に自然と組み込まれて初めて、AIは事業価値を生み出します。では、そのためには何が必要なのでしょうか。
急成長テック企業inDriveのHead of Global Learning People and Culture アルテム・イヴァネンコ氏は、そのことを自社の失敗事例とともに率直に語りました。
同社では、人事評価に向けて、マネージャーがAIとロールプレイを行い、難しい面談を事前に練習できる「AI面談コーチ」を試験導入しました。人間の判断力や共感力に、AIによる準備やフィードバックを組み合わせる取り組みであり、大きな効果が期待されていました。
しかし、約5週間の試験運用で、参加者全員の利用時間がたった10分という結果に終わったのです。問題はAIツールの性能ではありませんでした。忙しい現場の中で自然に使われるように設計されていなかったのです。
この失敗から、同社はAIを現場に定着させるためには、AI導入設計そのものを大きく2つの点で見直す必要があると考えました。
1つ目は「誰に届けるか(対象者)」です。AI面談コーチの試験運用は、人事施策に前向きで、新しい取り組みにも積極的なマネージャーを対象にして行われました。しかし、彼らはもともと評価面談への理解が深く、難しい対話にも慣れている層です。そのため、AI面談コーチは「あれば便利」な存在にとどまり、忙しくなると使われなくなってしまいました。
これは当たり前のように聞こえますが、盲点でしょう。AXが至上命題だからこそ、成功確率が高い組織や人を対象者として考えがちだからです。しかし、本当は「協力してくれそうな人」ではなく、「最も困っている人」から始めるべきです。評価面談が思うように進まないマネージャーや、部下との対話に課題を抱えるマネージャーなど、現場で強い痛みを感じている人ほど、お決まりの“忙しい”という最初の壁を乗り越えれば、その課題が解決されたときの価値を実感し、継続的に活用してくれるようになります。
2つ目は「どこで使われるか(業務動線)」です。AI面談コーチを利用するには、普段使っている評価システムとは別の画面へ移動し、改めてログインする必要がありました。わずかな手間に思えるかもしれません。しかし、忙しい現場では、その「ひと手間」が利用を止める大きな要因になります。
そこでinDriveは、AIを独立した学習ツールとして提供するのではなく、日々の業務プロセスに組み込む設計へと転換しました。たとえば、評価入力中にAIとの対話を提案したり、Slackの通知からそのままAIコーチを起動できるようにしたりと、必要な瞬間に、普段使っている場所でAIを利用できる仕組みへ変更したのです。
この記事は参考になりましたか?
- イベントレポート《海外》| HR World Summit 2026連載記事一覧
-
- AIネイティブ組織はどうつくるのか 人とAIが協働する組織の設計図
- 組織変革はなぜ頓挫するのか Cultureを“戦略”として捉える企業だけが前に進める理由
- AI時代の人事戦略に求められるのは「翻訳」と「錨を上げる」という能力だ
- この記事の著者
-
佐藤 邦彦(サトウ クニヒコ)
HumanDriven株式会社 代表取締役 CEO
早稲田大学政治経済学部卒。2008年リクルートに新卒入社。HR領域で営業、企画、マネジメントを経験。2015年からはリクルートホールディングスにてシェアリングエコノミーの事業開発、働き方変革推進のプロジェクトリーダーを務める。2020年にココナラへ参画...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


