「何が変わったか」と「どこまで適応したか」をデータで捉える
では、こうした環境や役割の変化と、その後のオンボーディングの状況を、データでどのように捉えればよいのでしょうか。
「期間」という観点で、人事データとしてよく使われるのが勤続年数(Tenure)です。しかし、オンボーディングの状況を考えると、勤続年数だけでは現在の状態を十分に表すことはできません。同じ勤続10年の社員でも、1ヵ月前に初めて営業部長になった人と、現在の役割を5年間続けている人とでは、置かれている状況は大きく異なります。
そこで、「入社してからどのくらい経ったか」だけでなく、「環境や役割が変化してからどのくらい経ったか」に注目します。異動日、職種変更日、昇進日、管理職就任日などを起点に、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後と状態を追っていきます。
さらに、それぞれの時点で、Skill・Process・Culture・Networkの4つの視点から、どこまで適応できているのかを捉えます。Skillであればスキル評価や習熟度、Processであれば業務習熟度や遂行データ、Cultureであればパルスサーベイ、Networkであれば相談相手や協働相手、コミュニケーションのデータなどが利用できます。
オンボーディングを分析する際には、「何が変わったか」×「変化からどのくらい経ったか」×「どこまで適応したか」という3つの軸を組み合わせて考えます。そうすることで、単に「異動した社員のエンゲージメントが低い」といった結果を見るだけでなく、その背景にあるオンボーディングの状況まで踏み込んで分析できます。
前回は、オンボーディングをある一時点の「点」ではなく、時間とともに変化する「線」として捉えることを紹介しました。今回加わるのは、その線をどこから引き始め、何の変化を追うのかという視点です。入社だけでなく、異動や昇進、職種転換などを新たな起点として捉えることで、勤続年数だけでは見えなかった「いま適応の途中にいる人」をデータから捉えられるようになります。
個人から組織の「変化のパターン」を捉える
こうしたデータを蓄積していくと、個人の状態を把握するだけでなく、組織全体として「どのような変化のときに、どこでつまずきやすいのか」を分析できるようになります。
たとえば、部署を異動した社員では、SkillやCultureへの適応は比較的早い一方で、Networkの形成には時間がかかるかもしれません。また、新任管理職では、期待される役割や仕事の進め方(Process)について本人と上長の間でギャップが生じやすい、といった特徴が見つかる可能性もあります。
こうした傾向が分かれば、オンボーディング施策も一律のものではなくなります。部署異動でNetworkの形成に時間がかかるのであれば、新しい部署でコミュニケーションを取りやすくするための支援を手厚くする。新任管理職で役割認識のギャップが生じやすいのであれば、就任直後から上長と期待役割をすり合わせる機会を設ける、といった施策につなげることができます。
オンボーディングでデータを使うのは、「適応できていない人」をあぶり出すためではありません。モニタリングの目的は評価ではなく支援です。同じ異動を経験した多くの社員でNetworkの形成に時間がかかっているのであれば、個人の問題ではなく、受け入れる組織やオンボーディングの仕組みに課題がある可能性も考えられます。
「誰がうまく適応できていないのか」ではなく、「どのような変化のときに、どのような適応の難しさが生じやすいのか」を捉え、その傾向を必要な支援につなげていく。これも、データからオンボーディングを考える重要なアプローチの一つです。
オンボーディングはキャリアの中で何度も起こる
ここまで4回にわたって、オンボーディングについて考えてきました。オンボーディングというと、新しく入社した社員を対象とした施策をイメージしがちです。しかし、異動や職種転換、昇進など、働く人はキャリアの中で何度も環境や役割の変化を経験します。そして、その変化によって、Skill・Process・Culture・Networkのどこに適応が必要になるのかも異なります。
人事データを見る際にも、勤続年数だけではなく、環境や役割に変化があった人に注目することが重要です。入社や異動、昇進といった変化と、その後の状態を組み合わせることで、「いま適応の途中にいる人」や「どのような変化のときにつまずきやすいのか」が見えてきます。
オンボーディングは、入社時に一度だけ経験するものではなく、キャリアの中で何度も繰り返されるプロセスです。そのプロセスをデータから捉え、必要な支援につなげていくことが、働く人が新しい環境や役割で力を発揮するために重要になります。
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- この記事の著者
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友部 博教(トモベ ヒロノリ)
東京大学大学院で博士号を取得後、東大、名古屋大、産総研などでコンピューターサイエンスの学術研究に取り組む。2011年、DeNAに入社し、アプリゲーム分析およびマーケティング分析などの部署を統括、その後ピープルアナリティクス施策を担当。メルカリの人事を経て、ビズリーチに入社。現在はビズリーチ WorkTech研究所 ...
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