『罰ゲーム化する管理職』から2年半、管理職の現在は——小林氏に聞く「対話の限界」と「心でっかち社会」
事業環境の変化や多様化する部下への対応により、管理職の負担が深刻な課題となっている。多くの企業が研修や1on1などの施策を導入している一方で、「組織に変化が起こらない」「かえって管理職の負担が増えてしまった」と悩む人事担当者が後を絶たない。そこで、「マネジメントサクセス」を掲げる株式会社mentoの丹下恵里氏をホストに、有識者や実践者と“本当の管理職支援”とは何かを探求する連載を開始。第1回のゲストは、大ヒット書籍『罰ゲーム化する管理職』にて、管理職をめぐる構造的な課題を浮き彫りにした小林祐児氏。前編となる本稿では、刊行から2年半が経ったいま、管理職の罰ゲーム化をめぐる現在地をお届けする。
管理職の罰ゲーム化に気づいた日本。変わったことと変わらないこと
——『罰ゲーム化する管理職』が刊行されて約2年半が経ちました。
丹下 恵里氏(以下、丹下) 数年前までは、管理職を支援しようと考える人事はマイノリティでした。しかし、徐々に増えていき、『罰ゲーム化する管理職』が出版されて一気に課題感がマックスになった印象です。それまでは、エンゲージメントサーベイ、1on1、研修などの人事施策が乗せられていたのが、管理職の負荷をこれ以上は上げられないという認識が共有されました。
ただ、人的資本経営の推進やジョブ型雇用などの制度を整えても、現場には打っても響かないという課題感は依然として残っていて、それを管理職になんとかしてほしいという願い自体は消えていない。管理職に負担をかけずに、でも爆発的にマネジメントがうまくいく“魔法のような”マネジメント支援を探し続けており、本質的な変化は起きていないと感じています。
小林 祐児氏(以下、小林) 私も、何か新しい施策をやるにしても、これ以上マネジメント層に負荷をかけるだけではだめだという認識は広がってきたと感じます。
この2年半の企業の変化として、管理職を孤独にしない「ネットワーク・アプローチ」は進みました。業績は必達だからある程度の負荷は仕方ないにしても、孤独に苦しむ管理職を放置しないという意識が定着してきたのだと思います。
小林 祐児(こばやし ゆうじ)氏
株式会社パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『職場の対話はなぜすれ違うのか』(光文社)、『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『学びをやめない生き方入門』(テオリア)、『残業学』(光文社)など多数。
丹下 一方で、依然として変わっていないことはありますか。
小林 とてもシンプルにいえば、管理職が罰ゲーム化する背景には、メンバー層が楽をしているという不均衡さがあります。働き方改革以降、メンバー層の働く環境だけがホワイト化し、大手企業では新入社員に1年間まったく残業させないケースもあります。未経験で入社し、そこから成長していくことが前提のメンバーシップ型雇用において、大事な時期にまったく成果圧力を受けない状態になっています。
丹下 やる気のある若手にとって、そういう企業を「ゆるブラック企業」と呼びますよね。
小林 現場で、こんな言葉まで出てきたか、と思ったのは「正社員のアルバイト化」です。一方で、組織全体の目標が下がったわけではないため、新人を入れれば入れるほど、管理職にのみ負荷が集中する構造的なアンバランスさが生じています。よく「現場が大変」だといわれますが、本当に大変なのは現場の管理職だけなのです。人事や経営が組織を変えるためのトリガーを管理職だけに期待しているアンバランスな構造は変わっていません。
がんばる動機がない部下と「やる気なんて関係ねえ」と言えない上司
——構造が変わらない中で、メンバー層の意識や働く環境は大きく変化しています。
小林 最近はよく、現代の組織は「内圧」と「外圧」の両方が低下しているという話をしています。
内圧とは、出世や収入といった動機付けのことです。若手層の賃上げが進んだうえに、副業や個人投資も増えて、組織に収入を依存しない人が増えています。未婚化も進んだことで、1人であれば十分に生きていけるようになりました。子供がいなければ、持ち家もいらないし、教育費もかからない。じゃあ、出世はそこそこでいいでしょうと内圧が低下しています。
そんな若手に、「いやいや、やる気なんて関係ねえ。新人なんてむちゃくちゃやるもんだろ」と無理をさせる「外圧」も低下しました。人事や経営層はハラスメントを恐れ、法的な安全対策としてのハラスメント研修ばかりを行っています。マネジメントの武器が奪われているのです。
丹下 一方で、ハラスメントは今なお職場の問題として残り続けていますよね。なぜでしょうか。
小林 内圧が低下して「この会社で本気は出さないよ」と思っている若手に対して、「本気を出せ」と迫る昭和型マネジメントがぶつかっているのはイメージしやすいでしょう。加えて、これまでなら普通だったラインについてこなくなった若手と、マネジメントの食い合わせが悪くなっているケースもあります。
我々が調べたところ、コロナ渦前の離職理由は「働きすぎ」「サービス残業が多すぎ」が多かったのですが、今は減っています。その代わりに、「成果の圧力に耐えられない」「評価に納得できない」が増え、トータルの離職数は大きく変わっていません。
最近ではスタートアップで、あえて外圧を残す「ネオ体育会系」のような戦略を取る企業もありますが、これは若い会社だからこそできることであり、すべての企業に適用できる汎用的な解決策ではありません。
丹下 文化祭的に活気ある文化を求めているメンバーもいますよね。管理職が部下のやる気を見極め、チューニングする必要があるように思います。
小林 「無理をさせても大丈夫なやる気がある人」というデフォルト値はそれぞれ違いますよね。昔はその値を引き上げるのが外圧だったわけです。
また、かつては「やる気がないとか関係ない、仕事があるのだからやれ」という共通認識がありましたが、それが通じなくなったことが非常に大きな変化であり、不可逆的な流れだと思います。
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北浦 汐見(キタウラ シオミ)
都内のスタジオに勤務後独立。ポートレート、取材、料理撮影等、都内を中心に活動中。
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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