『罰ゲーム化する管理職』から2年半、管理職の現在は——小林氏に聞く「対話の限界」と「心でっかち社会」
AIが広がるも、管理職は楽になっていない
——他にも、管理職を取り巻く環境の変化はありますか。
小林 2年間の変化でいうと、1つは人的資本経営です。これにより、人に数字がつき始めました。エンゲージメントサーベイなどを導入する企業が増えましたよね。
しかし、「エンゲージメントとは貴社の中で何を指すのか」と聞いたら答えられない企業が非常に多いです。人的資本経営で人に投資しましょうという話が、「エンゲージメント向上」に代わり、数字が1人歩きしているのが現状です。
人事は、エンゲージメントとは何で、それを向上させるために何をすればよいかがわかっていないのに、スコアに翻弄されるようになった。また、説明責任は現場にあるため、管理職の罰ゲーム化を加速させる要素の1つになっています。
丹下 さらに、生成AIも登場しました。
小林 AIの浸透も大きな変化ですね。『罰ゲーム化する管理職』を書いたときは、ここまで浸透していなかったです。
AIは罰ゲーム化を加速させるとまではいいませんが、負荷の中身を変えつつあるなと思います。たとえば、部下が上司に相談する代わりにAIに質問するようになり、一時的には上司の負荷は下がりました。
しかし、ここに新たな摩擦が生まれています。AIが出す回答は、一般的に正しい回答を返す「妥当性」は高いものの、自社や今のタイミングに合うかという「適合性」が低いのです。そうなると、妥当性は高いけどどこにも通用しない資料を部下が用意することになります。
丹下 1on1でも、「自分の今の状況はこうだとAIが言ってくれました」と丸投げしてくるケースを耳にしたことがあります。バイトを辞めたいときにお母さんに電話してもらうのに近いと思うんですけど、自分で責任をとるとか、自分の言葉として話すところまで追いついていないので、1on1でも1対2のような構図になっている。
丹下 恵里(たんげ えり)氏
株式会社mento 取締役 副社長
東京大学文学部卒。リクルート初の新卒で「NewRING」グランプリを受賞し新規事業開発や海外スタートアップ支援に従事。メルカリでマスマーケティングやプロダクト開発で上場前の事業成長に貢献。2019年、mentoの創業時に参画。女性管理職100名聞き取り調査実施中。自身もプロコーチとして活動。
小林 面白い。管理職からすると、部下と部下の味方のAIが1on1にやってくるんですね。
丹下 「この子を傷つけたのは誰?」って言ってくる人がいるみたいな……(笑)。本人の中でもまだ固まっていないことに対して、いっしょに対話を重ねることで関係性が深まることもあると思うんですけど、自己完結した状態で持ってこられるので、管理職も新しくて難しい状況にあると思います。
「自分らしさ」を信じる若手と「組織の論理」とのズレ
丹下 内圧と外圧の話に戻るのですが、それらが弱まってしまったのがすべての始まりなのかなと思いました。
小林 最近の若手は逃げ切り志向が広がっています。自分のキャリアと自分の成長につながるものだったら少しはがんばってもいいけど、仕事に人生やアイデンティティを注ぐ人は少なくなりました。で、貯金し終わったらさっさと抜けたい。データを見てもFIRE願望がどんどん広がっています。
でもそれを組織には見せません。対立はしたくないんです。でも、要領よく逃げ切りたいという考えがここ5年ぐらいでとても増えました。
丹下 5年か。それはなんでなんでしょう。コロナですか。
小林 コロナもあると思いますね。コロナによって、人間関係がすごい狭まった影響はあると思います。
あとは、「自分らしさ」の保護がとても広まりました。仕事においても「私には向いていないと思います」と答える人が増え、自分が変わることを考える人が減りました。
「自分らしさ」を守るというのは、感情に振り回されることでもあります。「私が感じたこの感動だけは誰にも奪えない」という感覚が、すべての世界を見る基準点になっている。次に出す書籍のあとがきは、いかにそれをずらすかという話にしました。
丹下 私はゆとりど真ん中で、「自分らしさは大事だよ」って言われてきた世代なんですが、社会に出て自分らしさが大事にされなくてびっくりする感覚は少しわかります。
多様な個性や組織は事業戦略に紐づくべきだと思う一方で、多様な個性で伸ばせる事業や会社はまだ世の中にないのが現実じゃないですか。画一性を一定担保しないと伸びない製造業や営業ドリブンの会社は特に。そんな組織の中では、仕事を楽したいというよりも、宗教や哲学が違う苦しさのほうが近い気がしています。
小林 私らしさを侵食するものとしての組織の論理。
丹下 そうですね。「自分らしさやあなたらしさを侵食するのはよくないことだと信じて生きてきたのに、なぜ」のほうが近い気がしていて。自分が変わることをよしとするかどうかを含めて、組織の論理と若手の信じてる哲学のズレが大きくなっているような気がしています。

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北浦 汐見(キタウラ シオミ)
都内のスタジオに勤務後独立。ポートレート、取材、料理撮影等、都内を中心に活動中。
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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