年に1度のストレスチェックからメンタルの状態を引き出せる
——ストレスチェックは厚生労働省が開発したものですね。どのようなことが分かるのですか。
ストレスチェックには「57項目版」と「80項目版」があります。広く用いられているのは57項目版で、「非常にたくさんの仕事をしなければならない」や「勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない」などの質問により、基本的なストレスをチェックできます。一方、80項目版は「感情面で負担になる仕事だ」や「私は上司からふさわしい評価を受けている」など、ストレスの原因を特定するのに有効な質問が追加され、改善策を見つけやすくなっています。
従業員50名以上の会社であれば、健康診断と同様、年に1回はストレスチェックを実施することが義務付けられています。ただ実は、ストレスチェックをうまく活用できている企業はそう多くありません。技術的にはストレスチェックからメンタルの状態を引き出す方法が確立されており、エンゲージメントとのクロス解析から、何がどう影響しているのかも推測することが可能です。また、これらで明らかになった問題をさらに深掘りするためのピンポイントの検査法や改善策も用意されています。
自社のIRにストレスチェックの状況を掲載するかどうかは、また別の判断ですが、人的資本経営においては、資本である人材の心の状態を把握するための手法として活用しない手はないと思います。人事だけがストレスチェックの結果を保持していることが多いのですが、経営層までしっかりと共有し、現状を把握し、戦略的に改善・強化に取り組んでいくことが必要です。
【参考】80項目版ストレスチェックから出せる「人的資本経営に活かせる項目」
- ワークセルフバランス
- 成長の機会
- 経済・地位報酬
- 尊重報酬
- 上司のリーダーシップ
- 上司の公正な態度
- ほめてもらえる職場か
- 失敗を認める職場か
- 経営層との信頼関係
- 変化への対応
- 公正な人事評価
- 多様な労働者への対応
- キャリア形成
- 職場のハラスメント
——まだ日本の経営層には、人材の「心」を把握する大切さ、「ストレスチェック」の有効活用が浸透していないということなのですね。三宅さんとしては、今どのような働きかけをされているのでしょうか。
もちろん、地道にさまざまな場面で提言は行っているのですが、ちょっと飛び道具的に、「有名企業の人的資本の開示で、ストレスチェックを導入するとどんな分析がかなうのか」について、勝手に分析してみた結果を公開してみたいと思っています。たとえば、「男女比」は人的資本の情報開示でよく公開されている数字ですが、男女別にエンゲージメントの数値を出し、そこに紐づく「金銭的報酬に対する満足度」などに加えて、ストレスチェックから「心の状況」などを見ていくことができれば、「その会社がどのくらい働きやすいのか」について説得力をもってアピールすることができるでしょう。